今、ウクライナで行われているロシアの虐殺行為も、ロシア内ではウクライナによる自作自演と喧伝されている。
なぜ真実が伝わらないのか、この開かれた時代に。自分の身に振りかかる権力の横暴から人々は目をそむけ、プーチンの言動を信じる。皮肉にも善男善女といわれる庶民ほど。
近隣国へ逃れる難民の群れ、最も多くの人を受け入れるポーランドは、かつて悲劇の民だった。その経験が同じ境遇に直面するウクライナの民を温かく迎える。人々が歴史から学んだものは大きい。独裁者と呼ばれる権力者だけが、そのことに気付かない。
いや気付いているからこそ、権力を守るべく一層過激な行為に走るのだ。怖れているのは、実はプーチンかもしれない。
カティンの森の語る真実は今も生きている。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年4月29日号