昭和から令和までの4世代にわたる家族の歴史を綴った6話の短編小説『博士の長靴』(ポプラ社 1650円・税込み)を上梓した。話の中心は天気の研究に生涯をささげた気象学者の藤巻教授。
藤巻家では、一年を立春や秋分、夏至など24に分けた「二十四節気」を大切にし、それぞれの日に家族でお祝いをして楽しんできた。
「私は文系出身なので、以前から理系の研究者への憧れがありました。それで今回は、いろいろ考えて藤巻教授を気象学者にしてみようかと。様々に変化する天気と、世代ごとに変わっていく家族の姿を、二十四節気の行事とからめて描いてみようと思いました」
瀧羽麻子さんは昭和56年生まれ。昭和から平成を経て令和に元号が変わったことも、この連作短編を構想するきっかけになったという。
「昭和、平成、令和と移り変わるにつれて、遠ざかっていく昭和という時代を書き残したいという思いがありました。年代を意識することで、自分が生まれる前の昭和を知ったり、それぞれの年代を見直したりする、いいきっかけになりました」
藤巻家では、父と息子、祖父と孫娘、曾祖父とひ孫の4世代が影響し合ったり、反目し合ったり、あるいは考えが似かよったりする。そんな家族の関係性を繊細に描いた。
「家族の有り様というのは世代や家庭によって違うものだと思います。それぞれのエピソードを、時代の移り変わりに伴う家族観や暮らしぶりの変遷をたどって描いてみようと思ったんです」
第1話の「一九五八年立春」から処暑、秋分、夏至、穀雨を経て、第6話の「二〇二二年 立春」で終わる。最終話では、藤巻教授が若い頃に経験した立春のお祝いや表題の「長靴」のエピソードが再び現れ、ほっと心がほころぶ結末につながる。その構成の面白さがこの作品の大きな魅力だ。
瀧羽さんは、小説家デビューしてからも会社勤めを続け、経営コンサルタントという仕事などもこなしてきた。
「会社で働くことで、自分とは年齢も立場も考え方も違う、いろんな人に出会う機会がありました。様々な価値観や人間関係を持つことは、小説を書く上でも役立っていると思います」