■被写体の夏山を雪に戻してみる

 Yumiko Chiba Associatesでの「吉田志穂『測量|山』」(~5月14日まで開催)。光が差し込む空間の中、ほかに受賞の対象となったシリーズ「砂の下の鯨」も鑑賞できる。

 雪の上に山の情景が置かれた作品の前で、足が止まった。これは雪山なのか。

「夏の蔵王です。被写体が夏山だったので雪に戻してあげたくて、プリントした画像と自分が撮影した作品とを雪の上に投影しました。私の作品は、雪やビニール傘などに投影したりして偶然生まれたもの。撮影をしていたら雨がちょうど降り出して……ビニール傘にしずくが当たったことでできた作品もあります」

 見つめれば見つめるほど惹き込まれるのが、鯨の作品だ。地元の砂浜に鯨が座礁し、囲いがつくられてその中に埋められたという。そろそろ海岸を撮影したいとGoogle Mapで撮影場所を探していた吉田さんは、その小さな囲いを発見する。すぐに検索し、自分が知らない間に地元の海岸に3メートルくらいの鯨が打ち上げられ、埋められた事実を知った。

「実際に見に行ったときが、風の強かった日の翌日で、綺麗に砂紋ができていた。それが、鯨の皮膚みたいに見えたんです。実際、その場に立つと、この下に大きな生き物が埋まっているという現実が体感でき、少しザワっとしましたね」

■知っている時間と知らない時間の間に起こる物体の変化

 時間の経過と速度をとても大切にする写真家だ。過去の写真を今の場所に埋めて撮影したりもする。自分の知っている時間と知らない時間。その間に起こる、長い時間の経過と物体の変化、そして偶然性に興味がある。

一番奥に飾られた山の写真が気になった。2016年、初めて伊豆大島へ行ったとき、三原山を眺めることのできる宿で撮影したと教えてくれた。

「宿の窓に消えるペンで、山陵を薄く書きました。噴火で山の形が崩れ、以前あったところが今は存在しない。そんな、時間の流れを感じさせられる自然そのものに、興味があるんです。だから人工物は、撮影しない。手を加えている人の作品には惹かれないんです」

 そう言って、静かにほほ笑んだ。

●第46回木村伊兵衛写真賞受賞作品展「吉田志穂展」

ニコンプラザ東京 THE GALLERY4月30日まで開催

ニコンプラザ大阪 THE GALLERY5月19日~6月1日まで開催

●第46回木村伊兵衛写真賞受賞記念展「吉田志穂『測量|山』」

Yumiko Chiba Associates5月14日まで開催

ともに入館無料

(木村伊兵衛写真賞事務局 長谷川拓美)

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