公的資金の注入で世界恐慌は免れたが、バブル崩壊で暴落した日本のアート市場は暗黒の時代に入る。バブル時に高値で美術品を買い集めたコレクターが、バブル崩壊で大損を被り、「アートは損をするもの」という認識が定着したからだ。海外では「現金をアート作品に変えることで資産を守る」という考えが一般的だが、日本では逆になってしまったのだ。
■ミレニアル世代が美術品などに投じる額は一昨年の2倍に
ではなぜ、コロナ禍ともいえるこの時期にアート熱が再燃したのだろう? 倉田さんは、2つの理由を教えてくれた。
ひとつは「世代交代」だ。
30年前のバブルを謳歌した後の暴落で、アートを高値掴みしたお金持ちが一線から退いた。昨今の売買市場に台頭しているのは、当時を知らない若手だ。UBS証券によると、2021年度上期に富裕層収集家が美術品などに費やした平均支出額は、2020年通年より40%以上も増えたという。牽引したのは主にミレニアル世代で、2019年の水準から2倍に伸びた。
「若い人はアート作品を高級品だと思っていない。むしろ投資となる対象として期待できる、と認識しています」
ふたつ目の理由は、インフレ懸念。
「コロナ禍の政府の経済対策で全ての人に10万円が給付され、中小企業も補助金などを受けたことで、現金よりも実物資産が価値をもつインフレの懸念が高まっています。結果、すぐに使う予定のないお金が、アートやダイヤモンドに変わっています」
■アート作品は資産かパートナーか
アート人気もダイヤモンド人気も、理由は極めてシンプル。インフレ懸念で現金のリスクが高まり、資産管理の観点から、将来性が感じられる実物資産に変えているだけだ。だが倉田さんは、アート人気に別の側面も見出している。
倉田さんはいま、自宅に22点の作品を飾っている。購入後にみるみる売れて世界に羽ばたいたアーティストもおり、資産額としては確実に値上がりしているが、「売る気はない」という。倉田さんがお金に困っていないから、ではない。