タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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仮想空間で自由に動き回れるメタバース。企業が続々と参入しています。「メタバースは新大陸」という表現もよく見かけます。それを見るたびに思います。「人類が“新大陸”を発見したときに何が起きたか、思い出そう」と。
新大陸とは、すでに存在していたけれど見えていなかった場所です。そしてそこには、先住民がいます。“新大陸”を発見した人々は疫病を持ち込み、先住民を殺戮しました。
メタバースは仮想空間なので既存の陸地はないし、先住民もいなそうですね。果たしてそうでしょうか。私たちが暮らしている人間社会の、目で見ることができなかった部分を可視化するのが技術です。例えば以前は各自の茶の間のテレビの前で好き勝手言ったり、頭の中でつぶやいたりしていた言葉が万人に見えるようになったのがSNSです。そこで何が起きたか。今やSNSは最新の技術を使った中世です。根拠のない噂(うわさ)話や誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)が跋扈(ばっこ)して人が死ぬこともある無法地帯。また、放送法に縛られないネットテレビができたときには、性差別的な番組やハラスメントを娯楽化したような番組が“自由”を標榜(ひょうぼう)して登場しました。昭和のテレビに戻ったのですね。新たな場所では、人は先祖返りするのです。