ロシア軍によるウクライナ侵攻では、連日、一般人が巻き込まれて亡くなっている。これまでの戦争や侵略でも民間人が戦闘に巻き込まれて亡くなるケースはあったが、今回ウクライナで起こっていることは明らかに異なる。なぜ、ロシア軍は民間人の殺りくをいとわないのか。現代ロシア史が専門の東京大学大学院人文社会系研究科の池田嘉郎准教授によれば、第一次世界大戦下に起きたロシア革命以降、旧ソ連に至るまでの独裁体制による希薄な人権意識が影響していると話す。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎
※記事前編<<世界を震撼させたウクライナ市民の虐殺 第一次世界大戦まで遡るロシア軍兵士「残虐性」の思想>>から続く
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旧ソ連は1991年に崩壊した。しかし、支配者集団はロシアに引き継がれたと、池田准教授は言う。
「特に軍や秘密警察の中身は旧ソ連の解体後もほとんど変わりませんでした。共産党のエリートも行政の各所に残った。ですから、国内外の敵をせん滅するためには手段を選ばないとか、非常に残忍なやり方で徹底的に弾圧するという思想は負の遺産ではなく、いまも現役のままです」
国家は市民を監視し、反抗する人間は葬り去る。しかし、軽く扱われたのは国民の命だけでなかった。ロシアは自国の兵士の命をさほど大切にしてこなかったという。
「兵士に対して『駒』『肉弾』という言い方がありますけれど、まさにそんな感じでロシア兵の命は扱われてきた。それをおかしいという空気もロシア社会にはあまり見られない。『兵士の母親委員会』が兵士の権利擁護のために活動していますが、広い支援を得られているわけではない。このように自国の市民や兵士の命を尊重してこなかった態度が、同様にウクライナの住民に対しても向けられていると思われます。だからロシア軍は民間人を殺すことにあまりためらいがないのでしょう」
それはプーチン大統領の指示である、という声もある。