【治療】

 うつ病になるのは心が弱いからだと勘違いされがちですが、根性を鍛えて治るものではありません。医師による治療が必要です。

 うつ病の主な治療法は、「心身の休養」「抗うつ薬を主体とした薬物療法」「カウンセリングなどの精神療法」の三つです。

 とくに休養は、うつ病治療の基本と言えるもの。「休んでいたら周囲から怠け者だと思われないだろうか」などと、休養をとることに抵抗感を抱く人もいますが、心と体の両方をしっかり休ませることが、すみやかな回復につながります。自宅では十分に休めないという場合は、入院も一つの選択肢になります。

 休養を取りながら、重症度に応じて薬物療法や精神療法を組み合わせます。

【大切なこと】

 以前はうつ病は「心の風邪」などと言われましたが、風邪のようにすぐに治るものではありません。治療でいったん症状が治まったからといってそのまま右肩上がりに良くなるわけではなく、足踏みをしたり、少し逆戻りをしたりすることもあります。そうした上下の波を繰り返しながら、ゆっくり回復していきます。

 症状が安定し、調子が上向いてくると、復帰を急いでつい頑張りたくなるものですが、無理をすると悪化することもあります。また、勝手に薬を飲むことをやめてしまったり、治療をやめたりしてしまうのは好ましくありません。

 治療には時間がかかることを知っておき、決して焦らないこと。少しずつ、ゆっくりと時間をかけながら進めていきましょう。

 うつ病は誰でもかかる可能性がある身近な病気ですが、実際に家族や友人など身近な人がうつ病を発症したら、どう対応すればよいかわからずに混乱してしまうこともあるでしょう。適切な対応をするには、本人だけでなく周囲もうつ病を正確に理解することが大事。医師や専門家からアドバイスをもらいながら、本人を温かく見守り、支えていきましょう。

※『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より抜粋

水野雅文(みずのまさふみ)

東京都立松沢病院院長 1961年東京都生まれ。精神科医、博士(医学)。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。イタリア政府国費留学生としてイタリア国立パドヴァ大学留学、同大学心理学科客員教授、慶應義塾大学医学部精神神経科専任講師、助教授を経て、2006年から21年3月まで、東邦大学医学部精神神経医学講座主任教授。21年4月から現職。著書に『心の病、初めが肝心』(朝日新聞出版)、『ササッとわかる「統合失調症」(講談社)ほか。