沖縄が日本に復帰して5月15日で50年を迎える。沖縄県民の願いだった「基地のない平和な沖縄」はいまだ実現せず、県民所得は全国最低。貧困も深刻で、「本土並み」とは程遠い。「日本復帰」が沖縄にもたらしたものはなんだったのか。作家で詩人の池澤夏樹さんが寄稿した。AERA 2022年5月16日号より紹介する。
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たまたま沖縄に来て首里のホテルに泊まっている。
朝、散歩に出て首里城公園への坂道を上る。首里高校の前で通学の生徒たちに近くの学習塾の青年が勧誘のビラを配っている。
しばらく行くと龍潭(りゅうたん)池がある。静謐(せいひつ)な水の広がりが美しい。池沿いに行くとバリケン(別名フランス鴨)というおかしな鳥がたくさんいる。狭い道で人とすれ違ってもまったく動じない。
日本中どこの県にも高校はあるし、池もあるだろう。強いて内地との違いを探せば、朝刊に「ヘビ捕獲ハンド」という道具の広告があったことか。「危険な毒ヘビもしっかり掴んで安全に捕獲!」というのはここにはハブなどの毒ヘビがいるからだ。
新聞には内地とは歴然と異なる種類の記事もある。飛行中の米軍機から部品が落ちる。人に当たれば人は怪我をするし家に当たれば家は壊れる。2021年8月に発生したオスプレイの事故の報告書を新聞が入手したところ、米軍の責任者は「(落ちた部品はこの機種では)ありふれた落下物で、整備が要因ではないと考えられる」と言った。ありふれた落下物!
あるいは去年の10月の米海兵隊上等兵による強制性交致傷事件について捜査立件に向かう沖縄県警の及び腰が批判されている。すべて米軍の「好意」だのみ。
首里を離れて中部に移った。嘉手納基地があり普天間基地があり、米軍の存在感が南部よりずっと濃い。
カフェで昼食を摂(と)っていると戦闘機が飛来した。一機また一機と計四機。この間、二分ほど、爆音でまったく会話ができない。学校ならば授業ができない。
目を転じれば遠くをオスプレイが二機飛んでいる。部品、落とすなよ!