「脚本を読み進めるうちに、『人に優しくすることさえも、権力や地位がある人にしか許されない行為のように思えたけれど、それは違う』『どんな選択をすることが、人に優しい選択なんだろう?』など、いろいろなことを考えました。その答えを、お稽古をしながら探っていくことができるのも、舞台のいいところなので、お稽古に入ったら、いろんなことをディスカッションしながら、掘り下げていきたいです」

■オリーブの実を食べたのは誰?

 人に対して、普段からできるだけ優しくありたいとは思うが、良かれと思ってやったことが、相手にとっては迷惑だったこともあれば、ミスしたことに後になって気づくなど、人間関係においては、「穴があったら入りたい」と思うような失敗も少なくない。

「数年後の再会になったけれど、『あのときはすみませんでした』と謝ったこともあります。そういうときに限って、相手の人は覚えてなかったりしますね(笑)。西洋の映画で、キリスト教の懺悔のシーンを観たりすると、どこかで誰かに罪を知ってもらうことで、リセットして次に向かえることもあるのかな、と。悩みや後悔をため込んで、気づかないうちに膿になるより、誠心誠意謝れる瞬間があれば、行って謝ったほうが、健やかに過ごせるような気がします」

 役を演じるときは、毎回、その役の本質を掴みたいと切望している。常に根源的な何かを掘り下げたいタイプではあるのだが、舞台をやるようになって、人間の生きる根源の一つである“呼吸”の大切さにも目覚めた。

「19年に、初めて舞台に立ったときの最初の関門が、自分の声が3階席に届かなかったことでした。緊張すると硬くなってしまう身体の箇所も見つかって、生身の肉体を使って、遠くまで声を届けるという、基本のお芝居に対応できるような身体作りに目覚めたんです。今は、身体をチェックしてくださる先生が何人かいますし、呼吸法を学びながら、どこが固まっているか、自覚できるようになりました」

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ポテトチップだけを手に、のんびりと一日を過ごす