田原総一朗・ジャーナリスト
田原総一朗・ジャーナリスト
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 ジャーナリストの田原総一朗氏は、台湾有事を念頭にした日本の防衛力強化に苦言を呈する。

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 ロシアで9日、対ドイツ戦勝記念日を祝う大規模軍事パレードが開かれた。そして、世界中が注目していたのが、ウクライナへの軍事侵攻を進めるプーチン大統領が、どんな演説を行うかということであった。

 4月下旬までは、ウクライナ東部2州の制圧の成功、つまり勝利宣言をするつもりだと見られていたが、ロシア軍の予想外の苦戦続きで、それは不可能になった。

 そこで、欧米の国々はプーチン氏が国家総動員などに道を開く「戦争」宣言をするのではないかと予測していたが、宣言はなかった。また、核兵器使用を示唆する趣旨の発言もなかった。

 プーチン氏は、ウクライナに軍事施設がつくられ、北大西洋条約機構(NATO)諸国が最新兵器を供給して危険が増大していると主張し、「やむを得ない、唯一の正しい決断だった」と、侵攻を正当化した。ともかく、演説では愛国心の訴えに力が注がれていた。

 なぜ戦争宣言のような、ロシア国民の闘志をかき立てるような発言がなかったのだろうか。

 ロシアが国際的に孤立し、しかも苦戦が続いていることで、ロシア国民のなかでウクライナへの軍事侵攻に対する不安が高まっている。プーチン氏はそう察知して、軍事侵攻の正当化に終始したのではないだろうか。

 ロシアのマスメディアはプーチン氏に対して、軍事侵攻を批判するような報道は基本的にしないが、SNSが普及していることでロシア国民の多くが世界の情報を得ることができるのである。

 プーチン氏にとって展望らしいものがまったくなく、かといって軍事侵攻を止めることは失脚につながるためできない。こういうときこそバイデン米大統領の出番ではないか。思い切ってモスクワに飛んで、プーチン氏が失脚しないぎりぎりの形で停戦させるように交渉すべきではないのか。

 ところで、ウクライナ問題が深刻化する中で、日本の防衛力強化を唱える意見が高まっている。

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