そして引退を表明し、プロスケーターとして初めての出演となるアイスショー・プリンスアイスワールドで田中が滑ったのは、町田樹氏の振付による『ショパンの夜に』だった。田中は昨年のプリンスアイスワールドで、町田氏が2014年に自作自演した『ジュ・トゥ・ヴ』を再演する“継承プロジェクト”に参加し、新しい味わいを持つプログラムとして生まれ変わらせている。そして今年の『ショパンの夜に』は、プロスケーターのためにアイスショーならではの振付をする“プロフェッショナル・ピース・プロジェクト”として演じられた。自分の頬を平手打ちする振り付けが印象的な「失敗の美学」を追求するこの作品を、田中は自らの競技人生に重ね合わせて滑ったという。田中は、町田氏の実験的な創作を体現するスケーターとしても唯一無二の存在なのだ。
演技に制約のないプロスケーターとなった田中のプログラムには、さらに大きな期待がかかる。プロスケーターとアシスタントコーチ、二つの活動を両立させる厳しい道をあえて選んだ田中が、これからアイスショーでどんな姿を見せてくれるのか、楽しみにしたい。(文・沢田聡子)
●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」