■停戦交渉難航にアメリカの影?
ところで、日本にできること、という点に関しては、東京大学名誉教授の和田春樹氏(ロシア史)をはじめとする14人の歴史学者が3月、「日本はロシアと安定的な関係にある中国、インドと協力して、ロシアとウクライナに戦闘停止を呼びかけ、公正な仲裁者になること」を要請する声明を発表した。
和田氏らは駐日ロシア大使館のガルージン大使を訪ね、即時停戦の必要性を訴えている。
和田氏はこう話す。
「大使はプーチン氏の忠実な代弁者であり、軍事作戦の正当性を主張しました。けれども、『停戦交渉がまとまってくると、誰かがウクライナのスカートの裾を踏むのだ』という言い方をしました。明らかに米国のことを指しているのですが、停戦交渉に応じる考えはあると感じました」
和田氏が悔やむのは3月末の停戦交渉が合意に至らなかったことだ。ウクライナ側の条件は、NATOに加盟しない代わりに新たな集団的な安全保障の枠組みを構築すること、クリミアの主権については今後15年間協議するというものだった。
「ロシアはその条件を歓迎したから、キーウから撤退したのです。G7はクリミア併合に対して経済制裁をしていたから、この条件は妥協的すぎると米国が反対したと考えられます」
まもなくブチャの民間人虐殺が発覚して、戦闘はますます激化していく。
和田氏が続ける。
「ロシアは途方もなく広い国境を持っているので、他国から侵略を受けることを過剰に恐れている国です。ソ連崩壊後、NATOが東方に拡大したことは正しかったのか、ということも検証しなければなりません。ロシアとウクライナは300年以上、一つの国でした。30年前に分離しましたが、これからも隣どうしで存在していかなければならないのです」
欧米は武器提供するから戦えという。停戦は積極的に呼びかけない。血を流し続けるのは、ウクライナの国民だ。それは残酷ではないのか。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2022年6月3日号