ミッツ・マングローブ
ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「ダチョウ倶楽部」について。

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 テレビなどで気を付けなければならないのが「衣装の色かぶり」というやつです。別に誰が自分と同じ色を着ようと気にしない人たちもいますが、特に「女性装」をするタレント同士は「先輩に色を譲る」のが、今も芸能界における暗黙のルールとなっています。

 中でも大人数が出る番組やイベントなどでは、あらかじめ共演者を把握し、女性もしくは女装寄りの人たちが「何系の何色をお召しになるか」を事前に確認するのが通例です。また、カズレーザーさんや平山みきさんのようにテーマカラーが決まっている人との「かぶり」にも気を付けるようにしています。なんだかとても芸能界っぽくて、この作業が私は好きです。

 実はそんな「色かぶり」で、先日ヤラかしてしまいました。それは今年の3月。某歌番組のトークコーナーに出演した際のこと。私の他にも、タレントやアーティストやアイドルが総勢10人ほど名を連ねていました。いつものように私は、共演する女性タレント・女性アーティスト・女性アナウンサーの衣装の色と、自分の座り位置を確認した上で「真っ赤なロングジャケット」をその日の衣装に選んだのですが……。

 台本に記された私の座り位置は、横2列になったトークセットの1列目の右側。左隣にはアーティストのAIさんがいらっしゃいました。AIさんの衣装はオレンジ系というところまでは確認済みです。さらに台本を見ると、私とAIさんの後ろ(2列目)にはダチョウ倶楽部のお名前がありました。

 スタジオに入ると、すでにダチョウ倶楽部の皆さんはお揃いでした。しかし次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは、それはそれは鮮やかな上下真っ赤なタキシードに身を包んだ御三方の姿。思わず「うわっ!」と声を出してしまうほど。完全にやっちまいました。

 一概に赤と言ってもいろいろな赤があります。系統の違う赤であればギリギリセーフかもしれませんが、よりによって私の着ている赤とダチョウさんの赤は、まるで示し合わせたかのように「同じ赤」でした。よもや「ダチョウ倶楽部と色かぶりする」など夢にも思っていなかった展開です。

「すいません! 色かぶってしまって!」などと無駄に大声で謝る私に、いつも優しい御三方は「全然! 気にしないでいいよ!」と言ってくださいましたが、いざセットに座ってモニターに映る5人(ダチョウ倶楽部・AIさん・私)のグループショットは、ただただ「赤い4人組とAI」にしか見えない。それどころか私がひとり前列にいることで、「ミッツ with ダチョウ倶楽部」みたいではありませんか。隣のAIさんもモニターが5人のショットになる度に笑っています。

 かなりバツの悪い気持ちでいたところ、後ろに座っていた上島竜兵さんが「なんだかミッツと俺らでグループみたいだな!」と笑いました。すると寺門さんと肥後リーダーも「確かに。ムード歌謡とか唄いそうだもんな」と乗ってくださり、一気に場が和んだのです。

 申し訳なさと嬉しさでいっぱいになったのは言うまでもありません。これからもあの赤いジャケットを着る度、「ミッツ with ダチョウ倶楽部」を想い出すでしょう。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2022年5月27日号