──いきなり武器を買う前に、まずすることがあるだろうと。
藤原:みんな、一般論というか大きな構造についての予測ばかりするんです。対中防衛を軍事力だけで考えると、結果的には中国の行動変容を促す外交手段を自分たちでつぶしてしまう。中国にとって日本はもともと仮想敵国ですから、さらに敵対的にするだけです。
優先されるべきは、中国の政策を変えること。これは可能です。習近平体制は非常に硬直的ですが、この戦争で中国は困っています。弱体化したロシアにずるずる巻き込まれるのは避けたい。また岸田政権はインドとASEANとの外交関係を深めていて、さきほどの「その他」との連帯を加速している。これも間違っていないと思います。
──まだまだ戦争の終わりが見えません。今後、国際秩序はどう変わると見ていますか。
藤原:戦争がさらに長期化する懸念が高いです。出口ははっきりしていて西側がこれまでにない結束をする、プーチン政権が倒れ、新しいロシア政府がつくられる。となると、国際秩序の再編成を考えざるを得なくなるでしょう。ただ、これもとてもむずかしい。これほどの戦争犯罪を起こした国をどう扱うかですから。
──藤原さんはテレビの討論番組で唐突に日本国憲法前文を引いて、話題になりました。
藤原:ええ、あれは9条の話かと誤解されたようですが、そうじゃないんです。憲法前文に書いてあるのは、日本の軍国主義体制が倒れた後の新体制の位置づけです。「国際社会は専制と隷従、圧迫と偏狭を認めない。日本国民はそこで名誉ある地位を占めたい」。日本国憲法は日本国内向けの社会契約であると同時に、戦後日本と世界の間の国際条約という二重の性格があります。
■ロシア国民は敵でない
藤原:今回もこの問題が出てくるだろうと思います。つまり、「プーチン政権は敵だったけどロシア国民は敵ではない。ロシア国民の意思によってつくられた政府を支持する」という秩序を、僕たちはつくっていかなければならないんです。
──ロシア国民は困窮しようとも反プーチンではなく反欧米になるだけだとも言われます。日本人が終戦でホッとしたような感覚が本当に生まれますか?
藤原:そのためにはもっと戦争が必要なんです。いやな話ですよね。
今はまだ日中戦争でいえば盧溝橋事件のあと、勢力圏の確保ができずに不安定が続いているあたり。だが日本政府には中国に勝てていないことが理解できなかったわけです。国民も戦争長期化には反対でも、中国から撤退しろとは言ってなかった。
今のロシアにとって戦争の拡大には合理性がありません。でも最初の戦争目的を撤回しない限り、この戦争は続いてしまうんです。
(構成/ライター・鈴木あかね)
※AERA 2022年5月30日号より抜粋