藤原帰一(ふじわら・きいち)/1956年生まれ。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。主な著書に『平和のリアリズム』『「正しい戦争」は本当にあるのか』(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
藤原帰一(ふじわら・きいち)/1956年生まれ。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。主な著書に『平和のリアリズム』『「正しい戦争」は本当にあるのか』(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)

■防衛力を強化すべきか

──日本では岸田文雄政権のウクライナ政策は基本的に支持されていますね。

藤原:そうですね。「一般市民から安全と自由を奪う侵略を認めるべきではない」という立場をとること、経済制裁も支持されています。日本は米国プラス欧州という大きな枠組みに協力する形です。4月末、ショルツ独首相が来日したのも、NATO諸国の協議を踏まえてのことでした。で、これは日本にとって大きな負担にならない。人道的協力にも反対は出ません。

──日本の防衛力を強化すべきだという声が高まっています。

藤原:核共有の議論が心配ですね。誰もNPT(核不拡散条約)のなかでの核共有について議論していない。NATOが核共有を導入したときはそこが大問題でした。米国の政策に協力してもらいたい、でも全ての国に核兵器を持ってもらいたくないというジレンマの中で、ドイツにどう核兵器を配備するか、非常に具体的な問題があった。

 では日本で具体的にどう装備や配備を考えるのか、まったく理解できません。そもそも核ミサイルは偵察を難しくするために原子力潜水艦に搭載されている。なのに地上にミサイル基地を作ってどうするんですかと。

■核共有よりすべきこと

──核の議論は極端だとして、具体的にはどういう防衛力強化が考えられますか。

藤原:今、必要なのはウクライナがロシアとの戦争で勝利し、ロシアに占領された地域を解放したあとの協力です。NATOではない日本に武器提供は求められない。ただ人道的な見地からウクライナ市民の安全を図るための協力というのはあるでしょう。

──中国の脅威に対してはどう備えるべきでしょうか。

藤原:ウクライナ侵略以降、中国は新たな軍事展開をしていません。中国に対抗するために新たに兵器配備をするのは優先事項ではありません。東アジアで重要なのはウクライナへの協力、さらに中国とロシアの協力を抑える努力で、これを外交の最優先事項にしなければいけない。

 そのポイントは経済です。いま経済制裁によってロシア経済のゆるやかな崩壊が生まれていて、一度回復したルーブルも秋口に向けて大幅に下落する可能性がある。中国がロシア協力を深めると、結果的には制裁の対象になる可能性があります。そのままにしていいのかっていう話です。

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