ジャーナリストの田原総一朗氏は、岸田内閣の危機を明らかにする。
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7月8日、奈良市内で参院選の街頭演説をしていた安倍晋三元首相が銃撃され、死去するという事件が起きた。
元海上自衛隊員の山上徹也容疑者は、「母親が宗教団体にのめり込んで家庭が崩壊した。安倍氏がその宗教に“お墨付き”を与えたと思い、狙った」と供述しているようだ。
その宗教団体は旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)で、1980年代につぼや印鑑などを高値で売る「霊感商法」や、信者になった著名人が参加した「合同結婚式」などで騒ぎになった、いわば過激な宗教である。
統一教会は、発祥の地である韓国では信者がさほど多くなく、日本を中心に広がったのだと見られている。そして、今回問題となった高額の寄付は、世間の感覚とは違っていて、億単位の寄付を求めるのだという。
創立者の文鮮明が日本での布教に力を入れたとき、安倍氏の祖父である岸信介元首相が力を貸したのは確かなようだ。そして昨年9月、教団の関連団体による集会に、安倍氏はビデオ動画による演説を寄せている。
それを山上容疑者は、安倍氏が“お墨付き”を与えたと受け取ったのであろう。
どのような事情があるにせよ、殺人を認めるわけにはいかないが、私は安倍氏の死去が自民党に及ぼす影響について、少なからぬ不安を抱いている。
岸田文雄首相は政治におけるほとんどの事案について、安倍氏と相談してきた。そして、安倍氏が十を主張すると、八くらいを取る、つまりややリベラルな決断をしてきたのである。岸田首相が属する宏池会というのは、池田勇人氏以後、ハト派の会派である。
岸田首相は、安倍氏がいなくなることで、どんな決断をするのか。
そもそも、自民党最大の派閥であった安倍派を一体どの政治家が受け継ぐのか。残念ながら、安倍氏ほど指導力のある政治家はいない。どうやら、当分はある種の集団指導体制で行くようだが、このような体制は長くは続かない。