映画「冬薔薇」は、6月3日から、新宿ピカデリーほか全国公開 (C)2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
映画「冬薔薇」は、6月3日から、新宿ピカデリーほか全国公開 (C)2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

「冬薔薇」は、成長物語でもなければハッピーエンドでもない。主人公が過ちを犯し続けていく姿は観ていてもどかしいが、監督は、「映画は、人の人生の途中から始まって途中で終わるもの。主人公の人生の先が、どうなるかわからない。そのわからなさのインパクトが最大のところで終わりたかった」と語る。

「観た人に、新たな解釈をしてほしいんですよ。今の時代、解釈を客に委ねる終わり方をすると、“無責任”とか“そんなの逃げ口上だ”と言われてしまいますが、逆に僕は、『お客さんを信用しているからできるんです』と言いたいですね」

 主演クラスの俳優と飲み食いをし、その人本来のキャラクターを脚本に投影させるやり方は、デビュー作である「どついたるねん」(89年)のときから続いている。

「(主人公を演じた)赤井(英和)くんとは、しょっちゅう飲み食いを繰り返していました。脚本があがって、感想を聞くために難波のビアホールで会ったときは、赤井くんが、『本当に思ったことを言っていいんですか?』と言って、『○ページのこのシーンはいらないと思うんです』と次々にカットを希望する。最後まで聞いたら、自分の出演していないシーンは全部いらなかったみたいで(笑)。『わかった、あなたが出ずっぱりのスター映画にするよ』と伝えました」

 数々の賞を受賞した「顔」(2000年)では、藤山直美さんとも何回か会食をした。

「シンプルに、直美さんが舞台上でやれない役を演じてほしかった。だから、何が好きで何が嫌いか、何が許せて何が許せないかといった、世間話のような雑談のような会話をたくさんしました。そこで本音を吐露してもらうことは、僕自身のことも問われることになります。僕の映画作りには、僕の欠点や未熟さ、恥ずかしい部分が相手にバレていることが大事。最初の会食の最後に、『では一緒にやりましょう』と言ってくださったので、そこから脚本を書いて、次の会食のときに、『人殺しの役です』と伝えたら、直美さんは、日本料理屋の畳の上でドーンとひっくり返りました。僕が、『ダメですか?』と聞いたら、『前回、一緒にやりますとお伝えしました。女に二言はございません』と。直美さんは、最後まで僕のことを『ヘンタイテインメント』と呼んでいました(笑)」

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