高齢化に伴い認知症を抱える人たちが増えている。地域を拠点に活動する横浜市の金融機関が、当事者の声を聴く研修を開いた。その理由とは──。AERA 2022年5月30日号の記事を紹介する。

当事者からは社会人の先輩として「大変なことは一人で抱え込まないで。みんなで一緒にやるといいものができる」とエールが送られた(撮影/編集部・高橋有紀)
当事者からは社会人の先輩として「大変なことは一人で抱え込まないで。みんなで一緒にやるといいものができる」とエールが送られた(撮影/編集部・高橋有紀)
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「認知症に対して、みなさん負のイメージをお持ちかもしれません。今日はそんなイメージをガラッと変えるためにきました」

 初々しいスーツ姿の若者たちに向けて挨拶(あいさつ)したのは、東京都町田市を拠点に全国の介護事業所のネットワーク「100BLG」を営む前田隆行代表。認知症になった人たちの居場所づくりに力を入れており、この日は横浜信用金庫(横浜市)が開いた新入職員研修に、BLG八王子に通う当事者3人と訪れた。

■地域の課題を共に解決

「話をするのは上手じゃないんだけど……」

 この春に就職したばかりの49人を前に、当事者3人が戸惑いを見せながらも身の上を語り始めた。でも、なぜ金融機関の新入職員に認知症を学ばせる必要があるのだろう。この研修を企画した横浜信金成瀬支店(町田市)の石田浩支店長がいう。

「『このまちの未来をともにつくる』という経営理念に基づき、地域に根ざした活動に取り組んでいます。当事者の生の声を聞くことで、さらに役に立つことができると考えました」

 信用金庫はふつうの銀行と違い、地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織。営業エリアも法律で定められている。高齢化で認知症になる人が増えているなか、同じ地域の一員として知り合ったBLGと一緒に、何ができるか考えたという。

 そこでたどり着いたのが、新入職員のうちから認知症について理解すること。当事者による研修を今年初めて開いた。

「いろいろな人が地域で暮らしていくために、金融機関は不可欠な場所です。信用金庫は地域の中小企業ともつながっている存在で、地域の課題を解決していく術を持っています。共生社会を作る一員として、これからの地域を考えるヒントを得てもらえたら」(前田さん)

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