左から佐藤モニカさん、屋良健一郎さん、普天間かおりさん(TOKYO FM提供)

 普天間かおりさんと辺野古へ行った。漁港横にはバリケードが築かれ、ガードマンが一人たたずみ僕らを見ていた。こちらの基地建設反対ののぼりには「じゅごんのいるうみをまもりたい」「美ら海残そう子や孫に」。県民投票で辺野古埋め立て反対の民意が示されたのにもかかわらず、国は工事を進めようとしている。そんな中での本土復帰50年。普天間さんは海に向かって、平和の想いが込められた「二見情話」をアカペラで歌った。強い雨。パチパチと傘に雨が当たる。唄声と雨がぶつかった。東京で音を再現した時、先の大戦で「鉄の暴風」といわれた米軍の艦砲射撃を思い出した。この雨粒のように何千万の弾丸が降ったのか。

 強風に煽(あお)られ、僕は浜辺で転倒し、右胸を強打した。短歌は自分がどう思ったかを31音に記すことができるという屋良さんの教えに従い、痛みを堪え、僕も歌を詠んでみた。「転倒し辺野古の砂の重さゆえ島の歴史の悲しみに触れ」

 特番タイトルは屋良健一郎さんの作品をそのまま使わせてもらった。

「血や怒り悲しみでもなく人を抱く色として咲けハイビスカスよ」。20代の屋良さんが作った短歌。ハイビスカスの色は詠む人、詠む時代、詠む人生によっていろんな意味を持つと知った。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2022年6月17日号

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