ウクライナ東部のルハンスク、ドネツクの両「人民共和国」で、ロシア軍が攻勢をかけている。今度どのようなシナリオが考えられるのか。ロシアや旧ソ連諸国の政治に詳しい慶應義塾大学の大串敦教授に聞いた。 AERA 2022年6月20日号の記事を紹介する。
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欧米諸国は武器を供与する一方で、ロシアに厳しい経済制裁をかけている。しかし、ロシア、ウクライナ両国から小麦の輸出が止まることで世界的に価格が上がり、アフリカでは食糧危機も懸念される。制裁は果たして効果的なのか。
「ロシア経済に相当程度の影響は出ているでしょう。国民の生活は苦しくなる。しかし、それが『戦争をどうするか』というロシア当局の意思決定に反映するかどうかは別問題です。ロシアに限らず、経済制裁での生活苦が政権当局への『戦争なんかやめろ』という声に結びつくかというと、むしろ逆であることが多い。今回も制裁を科した西側諸国に敵意を燃やす方向へ行ってしまう可能性もあります」
ロシア国内ではプーチン政権に公然と反対の声を上げる人が出てきているという報道もある。プーチン政権が倒れて侵攻が終わる可能性はあるのか。
「少なくともここ1、2カ月の間に、プーチン政権が内部から崩れる可能性は想像できません。もしプーチンがいなくなったとしても、後継者が誰になるかが問題です。プーチンを批判する中には『ウクライナごときに何を手こずっているんだ』というさらにタカ派の人も存在する。政権がどんな戦況下で倒れるかにもよりますが、『プーチンよりもっと好戦的な人が後継者になる』可能性もかなりある、と私は見ています」
■「人の顔」が心に浮かぶ
では、どうやってこの戦争を終わらせるか。12年から政党政治に関する調査でウクライナに何度も足を運んだ大串教授からまず返ってきたのは、「私には正直、『言葉がない』んです」という答えだった。心に浮かぶのはいつも「具体的な人の顔」だと言う。