AERA 2022年6月20日号より
AERA 2022年6月20日号より

「昭和の地震は安政や宝永と比べ小さいため、時間予測モデルでは次が発生するのも早くなります。『30年で80%』は時間予測モデルを用いた数値で、仮に単純な平均に基づけば、欠落がないことが確実な宝永地震以降で計算する場合20~30%、記録がある地震すべてで計算すると10%未満の確率です」(山岡教授)

■備える意義がある

 これをもって、「確率の水増し」と指摘する専門家もいる。ただ、山岡教授は続ける。

「南海トラフ地震がいつか起きるのは間違いなく、前の地震から75年が経過して、危険な時期に入りつつあることも否定できません。切迫度はわかりませんが、コストをかけて備える合理性がある地域だと考えます」

 想定される被害が甚大な分、これらの地震ばかりに意識が向きがちだ。ただ、数字にとらわれ過ぎる必要はない。

 地震予知総合研究振興会の上席研究員で、歴史地震研究会会長の松浦律子さんは、古文書に書き記された各所の地震被害を拾い集め、過去数十年の詳細な観測データと組み合わせて歴史地震の震源を割り出し、過去400年の地震のカタログ化に取り組んできた。松浦さんは言う。

「過去の地震をひもといて現代に生かすアプローチは重要ですが、数百年から千年サイクルの地震は人間の数世代に一度の自然現象。30年という短い期間で考えるのは無理があります。イメージしやすいよう発生確率を示していますが、確率が数パーセントでも、ひとりひとりがやるべきことは変わりません」

(編集部・川口穣)

AERA 2022年6月20日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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