高山弁護士によると、教唆とは「故意の犯罪」が実行された時に成立する。過失による犯罪には成立せず、故意の犯罪でも実行に至らなかった場合は、教唆罪は成立しないと考えるのが普通だという。

 今回の事故で警察は、運転者の女が、ことさら赤信号を無視して高速で走行したとして、危険運転致死を適用したものとみられる。

「指示に従った運転者の信号無視を、警察は『危険運転の故意』によるものと判断し、同乗者に教唆が成立すると判断した点が珍しいと思います」

 ただ、事件自体は珍しいとしても、似たような行為に心当たりがある人はいるのではないだろうか。

 例えばタクシーに乗った際、目的地へ急がねばならず、運転手に「急いで」などとお願いしたことはないだろうか。「前の車を追ってください」もそうだが、かつてはテレビドラマでもそうしたシーンがよくあった気がする。

 酔客などで、タクシー運転手に乱暴な態度をとる客もいる。

 都内の50代の運転手は、

「もっとスピード出せよ、という趣旨の要求を受けることはありますよね。交差点に差し掛かる際、信号が黄色に変わったので停止しようと減速したところ、『行けって!』と大声で叱られたこともありました」と話す。

 同乗者が運転手に“圧力”をかけた結果、事故が起きてしまった場合、同乗者の責任はどうなるのか。私たちはうっかり「教唆の予備軍」になってしまってはいないか。

 高山弁護士によると、教唆とは、発した言葉の内容や態度はどうであれ、「実行者に犯罪を実行する決意を生じさせること」で成立するという。

 高山弁護士は、

「『急いで』と運転手に頼んだ後、無謀な運転をして事故を起こしたとしても、その言葉によって『犯罪を実行する決意を生じさせた』と認定されるかと言えば、その判断は容易ではありません。ただ、状況によっては教唆が成立する可能性はあります。今はドライブレコーダーが普及していますから、そこに記録された内容が重要は判断材料になるでしょう」

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「運転手が無視するから事故が起きずに済んでいる」