生まれてこなければよかった命などあるのか──。そんな根源的な問いに対する是枝裕和監督の答えが、映画「ベイビー・ブローカー」だ。AERA 2022年6月27日号より紹介する。
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ワケアリの人間たちが、赤ん坊が幸せになるためにふさわしい養父母を探す“旅”をするうちに、“家族”のような新たなつながりで結ばれていく。これまで様々な“家族”を描いてきた是枝裕和監督(60)が、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウンという韓国でも名だたる俳優陣を起用した自身初の韓国映画だ。
もともと俳優たちとは映画祭で顔を合わせる度に、「一緒に映画を」という話があったという。是枝監督が振り返る。
「具体的に『これを作りたい』と思ったのは2016年。『ゆりかご』というタイトルでA4で4、5枚くらいの短いプロットを書いたのが最初です」
重なり合う4人の物語
ブローカー役はガンホとドンウォンを当てて書いた。
ガンホ演じるサンヒョンは自称“善意のブローカー”。表の顔は、おんぼろクリーニング店のしがないオヤジ。老眼鏡をかけながら足踏みミシンをそつなく扱い、ボタン付けも手慣れたもの。だが、実は彼は借金を抱え、離婚しており、幼い娘の態度も冷ややかだ。
サンヒョンの相棒で、養護施設で育ったドンウォン演じるドンスは、養父母探しに熱心に取り組む。彼自身、母親が残した「迎えにくる」というメモをいまだどこかで信じている。捨てられた子どもの痛みがわかるから子を捨てる母親が許せない。
映画では、旅をするうちに、サンヒョンはいろんなものを手放し、逆にドンスは一度断ち切れたものをつなごうとする。
そんな2人の話に、母になり損なった女性2人、ソヨン(ジウン)とスジン(ドゥナ)が母親になるまでの物語が重層的に展開していく。是枝監督は言う。
「シナリオを書きながら、それが一番、4人の魅力を引き出せるだろうと考えました」
結果、ソン・ガンホは今年のカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。