林:先生は、いまのような時代が来るとは思わなかったですか。
五木:いや、僕は思ってました。戦争は人間の愛憎とか運命というものがある以上なくならないだろうと思ってます。文明社会では、例えば裁判所がいろんな人の争いを法的に解決してますが、争いがあるというのが人間の世界で、善と悪という二つの渦巻きの中で平和を求めながら、人類は今後もずっと生きていくんだろうなと思います。
林:ただ先生は、例えば(瀬戸内)寂聴先生みたいに表立って運動をなさらないし、声明文を出したりすることもなさらないですよね。群れて団体で声高に何かするのが嫌いだとおっしゃって。
五木:嫌いじゃなくて、イデオロギー。レーニンの言葉で「それぞれの砲座から共通の敵を撃て」というのがある。それぞれの仕事で自分の志を述べていくことが大事だと思ってますから。
林:そうなんですね。
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(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年7月1日号より抜粋