このような芸人を題材にしたドラマが増えている理由は、今の時代には芸人が最もメジャーで最も身近な有名人であり、人々がその人生にも関心を持っているからだ。

 大河ドラマなどの歴史上の人物を題材にしたドラマに根強い人気があるのは、その人物が成し遂げたことや時代背景について、ある程度の共通認識があるからだ。

 たとえば、織田信長を扱った歴史ドラマを見る前に「桶狭間の戦いで勝って、本能寺の変で死んでしまうっていう流れがわかっているから退屈だな」と思う人はいない。むしろ、わかっているからこそ、それを楽しみにしてドラマを見るのである。

 極論すれば、現代の芸人とは、歴史上の人物と同じような存在である。人々は、テレビを見て彼らの芸を楽しむだけではなく、彼らの人生そのものをドラマとして味わっているようなところがある。

 ビートたけしなら、フライデー事件とバイク事故の二度の危機を乗り越えて復活したこと。明石家さんまなら、大竹しのぶとの結婚離婚。タモリなら、赤塚不二夫との師弟関係。それぞれの芸人にはそれぞれのドラマがあり、「伝説」として人々の記憶に刻まれている。それをドラマの形で改めて楽しみたいと思う人がいるのは不思議なことではない。

 人々の価値観が多様化して、誰もが知る有名人や、誰もが憧れるスターがいなくなった今の時代に、芸人だけはテレビを中心にしたエンターテインメントの世界にしっかり根を張っていて、その芸だけでなく人生そのものにも関心を持たれている。今後も、芸人ドラマは数多く作られ、その中から話題作や傑作も続々と出てくるに違いない。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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