毎分アップロードされる大量のデータを手に入れたことで、グーグルの音声認識技術などが一気に進んだ。日本はこうしたプラットフォームを持っておらず、ITの世界でさらに引き離されたと林さんは見ている。
さらに林さんは、ソーシャルメディアとの連携も拡大を後押ししたと指摘する。
「YouTubeは早い時期に動画の“埋め込み”に対応しました。ブログやニュース記事に動画が埋め込まれ、拡散される。うまくいろんなものにくっついていったという印象です」
「中学入試」で動画提出
教育の場においても、いまや欠かせない存在となった。コロナ禍でオンライン化待ったなしの状況になったことも要因の一つだが、それだけではない。
中高一貫校の湘南学園(神奈川県)の情報科教員でICT主任の小林勇輔さんは、前任校にいた15年からYouTubeを映像教材として授業に取り入れてきた。生徒が使う教育用SNSプラットフォームに、単元ごとの動画のURLを張っておき、生徒は各自で見て学習を進める。わからないところがあれば先生が回って解説する。「ブレンド型学習」と呼ばれるもので、個別最適化した学習ができる。
一時停止や早送り、倍速再生など、自分のスピードで学べるのもメリットだ。さらに、学びにはタイミングも重要だと小林さんは考えている。子どもたちの興味関心には「賞味期限」があるからだ。いま気になったことを、いま調べる。YouTubeなら関心が切れないうちに学びにアクセスできる。
「YouTubeで学ぼう、と自分でクリックする。その時点でとても主体的。学びに対して一歩踏み出している状態です」
見る側になるだけではなく、生徒たちの動画を作るスキルも上がっている、と小林さんは見ている。フィールドワークの報告提出などに動画を使う生徒がいたり、体育祭でダンスの振り付けを共有するのに、自分たちで撮った動画が使われたりする。
さらに同校では、19年から教科にとらわれない新しい入試として、90秒の動画提出と記述論述を合わせた入試を始めた。「これまでとこれから」をテーマに、本人が語る様子を撮った動画、というのがその課題だ。
何度撮り直しても、親が編集をしてもいい。親子で協力して作り上げる時間に価値があると考えるからだ。動画の提出方法は限定しないが、応募者の8~9割はYouTubeにアップして共有する形を取るという。応募された動画からは、一発勝負の面接ではわからない、「この学校で学びたい」という熱い思いがにじみ出るという。
(編集部・高橋有紀)
※AERA 2022年6月27日号より抜粋