
空路でインドを訪れる際、玄関口となったのがカルカッタだった。
「デリーまで直行便もあったけれど、値段が倍以上高かった。それで、マイナーな航空会社でマニラ、バンコクを経由してカルカッタからインドに入国した。ここを起点にしていたということもあって、カルカッタはぼくにとって、インドの原風景だった」
■マリファナに煙る安宿
「カルカッタは、何かを撮りに行ったというより、ストリートをうろうろしていましたね。カルカッタの魅力は路上にあり。路上生活者があふれ、大道芸人やジャンキーがたくさんいた」
コンクリートが剥がれた壁を背景に立ち、レンズを見つめるのは大道芸人の姉妹。姉が細長い太鼓を持ち、妹の顔にはひげが描かれている。一家で大道芸を披露している写真もある。
「道路に何本かくいを立ててね。その先に綱を張って。ダーンと、鍋みたいなのをたたくと、子どもが綱の上を歩き始める。で、見たら、こうきますから」
そう言って、石川さんは手のひらをぐいと突き出す。
「撮るときは覚悟しておかないと。写真を写して金を払わないと、怒られます。まわりのインド人も『払え、払え』って」

当時、安宿に泊まると、部屋の中はマリファナで煙っていた。
道端にしゃがみ込んだ男は何やらたばこのようなものをくわえている。
「路上で、ふつうにヘロインを吸っていた。砂糖みたいなのをひとつまみ銀紙の上に置いて、下からマッチの火であぶるんです。それで気化したの短いストローのような器具で吸い込む。麻薬をやっているやつはすぐにわかる。顔がボロボロになっちゃってね。で、だいたい死ぬ。おまわりもそいつらを捕まえないんですよ。金を巻き上げられないから」
■切ないリキシャ引き
道路を走るのは汚れた鉄の塊のような路面電車。旧宗主国のイギリスと同じ2階建ての路線バスもある(車体のへりに足をかけてタダ乗りする人も)。そして、インドの国民車「アンバサダー」。
一見すると、優美な丸みを帯びた車だが、「しょっちゅうぶつけているから、もうべこべこ。でも、鉄板がぶ厚いからたたいてすぐに元に戻せる。インドって、長年、外国資本を入れなかった。だから、こういう車の時代がずーっと続いたんです」。