裂肛の治療は、保存療法(排便習慣の改善と薬物療法)と、手術がある。
手術は肛門狭窄が起きている重症例に適応される。診察時に肛門に指が入るかどうかが手術適応の一つの目安になり、狭窄が強いと、痛くて指が入れられないという。また、潰瘍や見張りいぼなどで強い痛みが続く場合にも手術が考慮される。
術式として、切開はおこなわず手指を用いて肛門を広げる術式、硬くなった部分を切除する術式、硬くなった内括約筋を切開する術式、広範囲に切除し、皮膚を移動させて肛門を形成する術式などがあるが、いずれも高度な技術が必要となる。東葛辻仲病院院長の松尾恵五医師は次のように話す。
「肛門狭窄を起こすのはよほどの重症例なので、手術が必要になるケースはそれほど多くありません。ほとんどは保存療法で、じゅうぶんな改善を見込めます」
保存療法の一つである薬物療法では、消炎鎮痛作用をもつ軟膏や、内服薬として便秘を改善する緩下剤などが用いられる。
■便秘の改善で肛門の負担を軽減
もう一つの保存療法である排便習慣の改善は、治療の根幹となるといっても過言ではない。
まず、便秘を起こさないようにする。1日に1・5リットル以上の水分をとる、海藻類やいも類、果物などに含まれる水溶性食物繊維や、腸内環境を整える乳酸菌、発酵食品などを積極的にとるといいだろう。起床時に水を飲んで消化管の反射を促す、規則的な食事を習慣づけるなどもプラスになる。また、下痢も肛門上皮には負担になるため、アルコールや辛い物などの刺激物、冷たい飲み物などは控えめにする。
便意を我慢しない、便意が起きてからトイレに行く、トイレにいるのは3~5分以内など、排便行動も改善する。便をいきまずに出せるようにして、肛門に負担をかけないことが大切だ。
松島病院大腸肛門病センター副院長の岡本康介医師はこう話す。
「肛門周囲を清潔に保つことは大切ですが、肛門の傷口から菌に感染するのがこわいために、温水洗浄便座を過剰に使う傾向があります。使いすぎは肛門にダメージを与えるため、水勢を弱くする、短時間で済ますなどを心がけましょう」