独立を記念する第64回ナショナル・デーの祝賀会に先立ち掲揚されるマレーシアの国旗=2021年8月30日、クアラルンプールのムルデカ・スクエア
独立を記念する第64回ナショナル・デーの祝賀会に先立ち掲揚されるマレーシアの国旗=2021年8月30日、クアラルンプールのムルデカ・スクエア
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■中国大陸から大量の定住申請が舞い込んでいる

「あの人たちには、定住条件を引き上げたところで、何も響きません。中国のお金持ちにとっては、保証金なんてどこからでも引っ張ってこれますから――」

 マレーシアに移住してから4年になる日本人のM子さんは、中国人の富裕層の「お金持ちっぷり」をこう表現する。

 マレーシアは長年、世界各地からの定住者誘致を推し進めてきた。だがこのほど、突如として受け入れ条件の厳格化を打ち出した。定住希望者向けビザの取得に必要な保有資産証明などの必要額を、従来水準よりも4倍以上に引き上げるというのだ。

 日本にとって、マレーシアは14年連続で「ロングステイの希望国トップ」と、海外での定住を検討する人々の間で高い人気を誇っている。その一方で、現地の受け入れ当局は過去数年にわたって、中国大陸から大量の定住申請が舞い込み対策に苦慮していたという。マレーシアで、目下どんなことが起きているのか。

■仕事をしなくても外国人が定住できる「MM2H」ビザ

 マレーシアではいま、新型コロナウイルスのデルタ株による感染が広がり、市民生活にも大きな支障が出ている。厳しい行動制限を打ち出しているにもかかわらず、新規感染者数は連日、過去最多水準にある。先には、コロナ禍対応へのまずさから、昨年2月に生まれたムヒディン政権がとうとう倒れ、新首相としてイスマイル・サブリ首相に交代する事態にもなっている。

 マレーシアには、「マレーシア・マイ・セカンドホーム(MM2H)」と称する外国人の定住希望者を誘致するスキームがある。一定額の保有資産証明を提示し、定期預金を現地金融機関に積み立て、諸条件をクリアできれば、現地に居を構えることができるというものだ。現地での就業、投資をしなくても住めるとあって、中国をはじめ、韓国、英国そして日本からもこのビザを使って住んでいる人がいる。

 MM2Hは2002年の制度開始以来、正常な形で承認発給が行われていた2018年までに総計4万3943人の外国人が同ビザを取得、これまでの経済効果は120億リンギ(現在のレートでは3240億円)に上っている。

■月収27万円で住めたのに新条件は「月収108万円以上」

 マレーシア経済にも一定の効果が上がっているにもかかわらず、同国政府は条件を厳格化しようとしている。変更点は別表の通りだ。


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