東京パラリンピックは8月27日、アーチェリーが始まり、男子リカーブオープン個人に上山友裕(33)が出場する。AERA2019年6月3日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
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弓に矢をつがえて姿勢を整えると、左手で弓を前に押し出し、右手は弦をめいっぱいに引く。上山友裕の狙いは70メートル先にある米粒程度の小さな小さな的だ。矢を放った次の瞬間、スパーンと音が響き、矢は的の中心に。一連の所作の美しさに、スポーツというより芸術作品を見たような気になる。
軽々と引いているように見えるが、その力は20キロを超える。健常者としてアーチェリーをしていた大学時代は約17キロの強度の弓を使っていたが、世界で勝つため弓を変えた。矢の速度が上がれば、風などの影響を受けにくくなる。
ただ、それは簡単なことではない。上山は車いすに座ったことで、今まで引けていた強度の弓も引けなくなったという。下半身の踏ん張りがきかない中で強い弓を引くために、練習量を増やし、上半身の筋力をつけて以前より強い体を手に入れた。
手元のわずかなぶれが、70メートル先では大きなずれになる。そのため多くの選手がルーティンにこだわるが、上山は射た後にため息をついたり、伸びをしたり。以前、テレビ番組の企画で矢を放つ動画を四つ重ね合わせたところ、途中はバラバラな動きをしているのに、的を狙う姿勢で一枚の絵になった。
「自分でもよくわかりません。ただ、僕の中では視界が全部一緒なんですよね」
風や雨も計算して高得点を狙うアーチェリー。常に変化する状況でも自分のリズムに戻すことができるのは強みだ。その照準には、世界の頂点も入っている。
(編集部・深澤友紀)
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■アーチェリー
的を狙って矢を放ち、得点を競う。一般的な弓の「リカーブ」は的までの距離は70m。弦を引く力が弱くても矢を遠くまで飛ばすことができるように先端に滑車のついた「コンパウンド」は50m。障害の種類や程度によって、車いすを使用する選手や立って弓を射る選手のクラスに分かれる。
※AERA2019年6月3日号に掲載