温泉大国、日本。リフレッシュ方法が「温泉」という人も多いのではないでしょうか。湧き上がる湯けむりに包まれてお湯に浸かると、なんとも長閑な気持ちになりますね。「温泉マーク」は、湯けむりを象った単なる絵文字ではなく、正式な「地図記号」として使用されていることをご存知でしょうか。

今回は、温泉マークの由来と、法律でも定められているちょっと意外な温泉の定義についてご紹介します。

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おなじみの「温泉マーク」には、360年もの歴史があった

湯けむりを表す3本の曲線が、逆から見ると数字の「2」が3つ並んでいるように見えることと、温泉地にふさわしい3つの言葉(風情、風景、風味)の頭文字の「ふ=2」を並べた日付から、2月22日が「温泉マークの日」として登録されました。

温泉記号発祥の地は、群馬県安中市の磯部温泉。江戸初期にあたる1661(万治4)年、上磯郡村(現・安中市上磯部)とその南側に隣接する中野谷村(現・安中市中野谷)で土地の境界争いが起こり、その決着を付けるために幕府が評決文を出しました。その文書に添付された絵図面に「温泉マーク」らしき記号が2つ描かれていたことから、「日本最古の温泉記号の地」とされています。

磯部は日本三大奇景の妙義山を望む碓氷川(うすいがわ)沿いに位置し、中山道を往来する旅人や湯治客で賑わった歴史ある温泉街です。険しい山道を歩いてきた人々は、この地の湯で旅の疲れを癒したのでしょうね。磯部詩碑公園内の赤城神社にある「日本最古の温泉記号」の記念碑には、当時の温泉マークが刻まれています。湯気が勢いよく立ち昇るさまが見事に表現されており、ピクトグラムとしての完成度はもちろん、筆使いや絵心からは温泉愛が伝わってくるようです。

グローバル化を乗り越えて、存在感を発揮!

実際に地図に温泉を表す記号として「温泉マーク」が使用されたのは、明治時代になってからでした。1879(明治12)年に、内閣省地理局測定課で制定された点図がはじまりとされています。現在も地図に使われている「温泉マーク」ですが、近年改変の危機がありました。2014年に国土地理院は「外国人にわかりやすい地図表現検討会」を設置、温泉マークやコンビニマークなどについて、新しい表示の使用が2017年7月からスタートしたのです。

検討過程での外国人によるアンケートで、湯気だけの温泉マークは「温かい飲み物」「温かい食べ物」「コーヒーショップ」「レストラン」などに見えるという意見が出たそうです。そのため、湯気の下に人物を入れた温泉マークが国際規格として考案されました。一時は歴史ある温泉マークに消滅の危機もあったようですが、発祥地といわれる磯部温泉をはじめ、温泉地や関連団体、温泉愛好家からも、なじみ深い温泉マークを残す要望が寄せられることに。現行マークと国際規格マークの併記も検討されましたが、最終的には選択制ということで落ち着きました。

「温泉法」とは?「国民保養温泉地」ってなに?

めでたく記号として残った温泉マーク。ところで「温泉」とは?

何が温泉かは、1948(昭和23)年制定の「温泉法」という法律で決められています。その定義は、地下から湧き出した温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)のうち、摂氏25度以上(源泉から採取されるときの温度)、もしくは指定された19の成分(遊離炭酸、水素イオン、総硫黄、ラドンなど)のうち一種類以上を一定量以上含むもの。冷たくても、指定成分が一定量以上溶け込んでいれば「温泉」になるのですね。

「温泉法」は、温泉の保護や安全確保、温泉利用の適正を目的としており、環境省では公共福祉増進のために「国民保養温泉地」の指定を行なっています。国民保養温泉地とは、温泉利用の効果が十分期待され、かつ健全な保養地として活用される温泉地のこと。最初に指定されたのは、酸ヶ湯温泉(青森県)、日光湯元温泉(栃木県)、四万温泉(群馬県)の3か所でした。以後年々数が増え、2020(令和2)年11月現在では、全国で77か所が指定されています。

温泉地には固有の自然環境や泉質、神話に由来する「開湯伝説」など、風土とともに語り継がれる歴史や文化があります。なじみ深い「温泉マーク」とともに、大切にしていきたいですね。

◆国民保養温泉地基準

第1 温泉の泉質及び湧出量に関する条件

(1)利用源泉が療養泉(特に治療の目的に供しうるもの)であること。

(2)利用する温泉の湧出量が豊富であること。なお、湧出量の目安は温泉利用者1人あたり0.5リットル/分以上であること。

第2 温泉地の環境等に関する条件

(1)自然環境、まちなみ、歴史、風土、文化等の観点から保養地として適していること。

(2)医学的立場から適正な温泉利用や健康管理について指導が可能な医師の配置計画又は同医師との連携のもと入浴方法等の指導ができる人材の配置計画若しくは育成方針等が確立していること。

(3)温泉資源の保護、温泉の衛生管理、温泉の公共的利用の増進並びに高齢者及び障害者等への配慮に関する取組を適切に行うこととしていること。

(4)災害防止に関する取組が充実していること。

※環境省ホームページより

◆国民保養温泉地一覧

参考サイト

安中市ホームページ

環境省

一般社団法人 日本温泉協会

日本旅マガジン