第3波の到来で東京など10都府県はもっか2度目の緊急事態宣言下にある。では最初の緊急事態の時はどうだった?
『新型コロナからいのちを守れ!』の副題は「理論疫学者・西浦博の挑戦」。厚労省のクラスター対策班の中心メンバーで「8割おじさん」の異名をとる西浦博による第1波を乗り切るまでの奮闘記である(インタビューと構成は作家の川端裕人)。
クラスター対策班が発足したのは2月25日。3日後には早くもクラスターが発生する環境要因が特定されたが(これが後の「3密」)、この時点では<パンデミックになるかどうか、まだ半信半疑だったんです>。
ここからはじまる戦いはしかし想像を超えていた。彼らの前にはコロナ以外の壁が次々に立ちはだかる。官僚や政治家とのせめぎ合い。「あれは言うな」「これはやるな」などの牽制。科学者の領域を超えた要求。メディアから飛んでくる批判。
驚いたのは「8割」をめぐる攻防だ。緊急事態宣言を1カ月で終わらせるには8割の接触削減が必要だと合意したのに、出てきた文案は<内閣官房の誰かが、8割を7割に勝手に変え>ていた! 専門家会議の尾身副座長の機転で「最低7割、極力8割」という妥協案に落ち着きはしたものの、これに限らず行政の意向で科学的な分析がねじ曲げられる。<政府の意思があたかも専門家の言ったことであるかのように>入り込んでくる。
関係者の会見に曖昧な文言が多かった(今も多い)のはそのためか。科学と行政の板挟み。これじゃストレスたまるよね。
とはいえ、本書でもっとも印象的なのは<一つの方向に向かっていくと反対側の方向からどよめきが起きる>という箇所だった。<日本の流行対策の特徴は、国民が監視をする中で進んできたということなんですよね>。人々が感染症対策に厳しい目を向けてきたことを彼は高く評価するのである。科学者の独善に陥らない姿勢に感動。監視と議論も無駄ではないのだ。
※週刊朝日 2021年2月26日号