東京・新橋といえば、「サラリーマンの街」の代表格としてしばしばテレビニュースの街頭インタビューでも取り上げられる場所だが、実際にはとてもそのひとことでは表しきれない複雑な来歴と背景を持つ街でもある。それを象徴するのが、線路を挟んで東西の駅前に立つ新橋駅前ビルとニュー新橋ビルだ。

 15年ほど前から新橋に通うようになったという著者は、戦後の闇市を前身とするその二つのビルを中心に探訪を重ね、この街の成り立ちと歴史とを解きほぐしていく。金券ショップやマッサージ店、居酒屋、ゲームセンター、風俗店などが混在する泥臭くて猥雑なその空間は、昭和の香りを色濃く留めながら、さまざまな人生模様を巻き込んできた。

 再開発によっていずれ消えゆくさだめの異空間。本書は、その残像を豊富な写真とともに捉えた貴重な歴史的証言だ。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年12月11日号