電子書籍の普及が進む。なかでもコミックは、電子版の売り上げが紙版を抜いた。電子書籍を読むことは、紙の本で読むことと同じか? 長い間議論されてきたテーマだ。

 メアリアン・ウルフの『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』は、ずばりこの問題を扱っている。著者は認知神経科学、発達心理学が専門で、読書が脳に及ぼす影響の研究で知られる。前著『プルーストとイカ』は日本の読書界でも大きな話題になった。

 本書は著者から読者への九つの手紙というかたちで書かれている。文字を読むとき脳の中で何が起きているかなど、難解なことは卓抜な比喩とイラストを使って説明。専門知識がなくても分かりやすい。

 さまざまな研究によって、デジタル読書と紙の読書の違いが明らかになってきている。文章の内容について、共感したり類推・推理したり、批判したりしながら読む「深い読み」は、紙の本のほうが向いていそうだ。しかし、だからといって、デジタルを捨てよ、紙に戻れ、とはいわない。たとえばディスレクシア(識字障害)の子供にはデジタルのほうが向いていたりもするように、デジタルの長所も無視できない。

 デジタル漬けでは損なわれるものがあり、紙だけでは足りないものもある。これからは、デジタルでも紙でも「深い読み」ができる「バイリテラシー脳」を育てていこう、というのが本書の結論だ。

 今後、日本の小中学校の現場にはデジタルがどんどん入ってくる。その用い方などについて、脳や心に関する専門家からのチェックは充分受けているのだろうか。経済界の要望優先になっていないか?本書は関係者必読である。

週刊朝日  2020年4月10日号