東方神起のチャンミンの愛読書として知られる『言葉の品格』の姉妹書だが、韓国本国ではこちらが先にベストセラーになった。新聞記者を経て作家になった著者が、言葉への信頼に満ちた思いを綴ったエッセイ集。

 活字中毒を自称する著者だが、文字のみならず言葉そのものへの鋭敏な感覚が随所に溢れている。電車の中でふと耳にした見知らぬ人たちの会話、ふと立ち寄ったタイヤ専門店のエンジニアがもらしたひとことなどから、縦横無尽に思索をめぐらせ、思わず膝を打ちたくなる真理に気づかせてくれる。時には言葉の不在こそが意味を持つという指摘にも頷かされる。

 日韓関係がこじれる中、「そして父になる」など日本映画への言及も多い本書を読むと、諍いの愚かしさに思いを致さずにはいられなくなる。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年3月6日号