「得意なこと」や「長所」がわからない理由は明らかでした。そもそもの接触回数が少なかったのです。事例をご紹介します。

●営業同行で「絶対やってはいけないこと」

 課長が勤めている会社では人材育成の一環として、月に1回以上、部下の営業に同行することが求められていました。自分の同行記録を見ると、馬が合う部下の営業には月に5~6回同行しているのに、馬が合わない部下の営業では「義務」である月1回の同行にとどまっていることに気づきました。

 また、馬が合う部下の観察記録には「クライアントとの関係強化がうまい」「ニーズをよく引き出せている」といったメモ書きが並んでいるのに対し、馬が合わない部下の観察記録はほぼ真っ白。営業同行していても、関心を持って注意深く見てこなかったのです。

 これでは「得意なこと」や「長所」が見つからないのも無理はありません。

 課長は心を入れ替え、営業同行の回数を全員同一にすることにしました。そして、馬の合わない部下の営業に同行したときは、今まで以上に部下の行動を注意深く観察し、記録に残すことにしました。

 はじめのうちは、馬の合わない部下の営業同行はどことなくぎこちなかったのですが、だんだんと必要なコミュニケーションがとり合えるようになりました。次第に「得意なこと」や「長所」も見え始め、今後はそれを伸ばしてあげようと、課長は奮闘中です。

 まずは、馬の合わない部下との関わりを増やす。

 ここから始めてはどうでしょう。

浅井浩一
1958年生まれ。大学卒業後、JT(日本たばこ産業)に就職。「勤務地域限定」の地方採用として入社。「どんなにがんばっても偉くなれない立場」から、キャリアをスタートさせる。日本一小さな工場勤務での、きめ細かなコミュニケーションを通じた働きぶりを買われ、本社勤務に。その後、営業経験がまったくない中で、全国最年少所長に抜擢され、リーダーとしての一歩を踏み出す。
職場再建のプロと称され、次々と任された組織を活性化させ、とうとう歴代最年少の支店長に大抜擢。31支店中25位より上位の成績をとったことがなく、閉塞感に陥っていた支店を2年連続で日本一に導く。2001年より、公益財団法人日本生産性本部・経営アカデミーなどのビジネススクールで多くの企業幹部、管理職、リーダーを指導。全国で年間100回以上の研修や講演を行い、コンサルタントとしても現場に入り込む。「離職率を抑え、メンタルを病む人をゼロにし、なおかつ目標を達成し続ける」ために、リーダーとともに考え、行動し、悩みの解決を図る。業種・業態を問わず、職場再建率は100%。