「二・二六事件にしても、血盟団にしても、歴史はあとで右翼とか何だといわれるが、われわれは正義のためにやったのだ。(略)房子は、いま左翼だといわれているけれど、とにかく、自分が正しいと思うこと、これが正義だと思うこと、それだけをやれ!」(同前)
海を渡った娘が国際手配されると「死んで詫(わ)びろ」との抗議に父は答えた。「世界中の人間があいつは悪者だと言っても、父親の私が娘をかばわないでどうします」(『日本赤軍私史 パレスチナと共に』河出書房新社)
重信房子の娘、重信メイは73年レバノンに生まれ、逃走を続ける母と過酷な幼少期を過ごした。極右の祖父と極左の母の血が流れるメイは命の「メイ」。革命の「メイ」でもあった。彼女には国籍がなかった。無国籍とは「法律的に存在しないこと」。常に隠れ居場所を変える生活だった。
「自分の人生は常に秘密で、嘘(うそ)をつくしかなかった。私が怪しいと思われたら、母や同志の安全まで脅かされる」
人生が変わったのはベイルート・アメリカン大学に入ってから。もう嘘をつく必要がなくなった。でもそれは大好きな母と離れ離れになることだった。(次号へ続く)
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年7月8日号