日本でも昔から恐怖心とともに人々の好奇心をかき立ててきた「怪談」ですが、それは何も日本だけに限らず、外国においても同様のようです。
今回ご紹介する『亜細亜熱帯怪談』は、タイを中心とした東南アジアに広がる古典的な怪談から最新の現代奇譚までを網羅した一冊。タイ在住歴20年という著者・高田胤臣氏が東南アジアの文化や観光スポットを怪談を切り口に探究するという、ユニークな試みをおこなったルポタージュとなっています。監修は、丸山ゴンザレス氏。
第1章は典型的・古典的な怪談を紹介した「語り継がれるタイの怪談」。本書には心霊現象全般を表す「ピー」というタイ語が頻繁に登場しますが、この概念を理解するには古くから現代にいたるまで受け継がれてきた怪談を知ることが手っ取り早いと著者は記しています。
読んでいて興味深く感じたのは、日本との共通点。たとえばタイの有名な古典怪談『メーナーク・プラカノン』は、日本の古典怪談『牡丹灯籠』の話に似ている点が見られます。また、幽霊の名称であり、それを呼び出す儀式の名前でもあるという「ピー・トゥアイゲーウ」は日本の「こっくりさん」にそっくり。タイに住む人の気質や考え方の根底に触れられるとともに、タイ人と日本人の類似性や相性の良さのようなものも感じさせられる章となっています。
続く2章では、「ピー」の概念をもとに、現代のタイ国内での心霊目撃談や怪談を取り上げます。たとえば日本では「エメラルド寺院」としても知られる、バンコクの観光スポット「ワット・プラケオ」。"歴史ある"ということは、つまりはさまざまな事件や事故の起こった場所でもあるということで、ここを訪れると寺院の呪いに襲われる外国人観光客たちも多いのだとか。ほかにも、タイの玄関口であるスワナプーム国際空港やバンコク内の数々のホテルも心霊スポットだというから驚きです。そんな情報、一般的な日本のタイ観光ガイドブックには絶対に書かれてないはず!
そして、第3章では実際にバンコク都内の心霊スポット巡礼へ! バラバラ殺人事件があったアパートや事故や自殺の名所であるラマ八世橋、花売りのピー(幽霊)が出るという公園など著者自身が訪れます。
各章の始めにはマップがあり、それぞれの怪談や心霊スポットの位置が記されています。そのため、実際のガイドマップとしても有効で、怪談という切り口から観光することができるというのも本書の面白いところです。
とにかく次から次へとタイを中心とした国々の怪奇譚が綴られている本書。ページのすき間から東南アジア特有の濃密で湿った空気がぬらりと這い出してくるかのようで、読んでいて背筋をゾクリとさせられたりも......。日本の怪談やホラーには慣れているという人も、この恐怖感は新鮮に感じるのではないでしょうか。そして、タイに対して"微笑みの国"や"陽気"というイメージを抱いている人にとっても、新たなタイの一面が見られる一冊になっていることと思います。