生まれてわずかで丁稚に行った家では、お局猫にいじめられ、次にもらわれた家の人間には「愛想がない」と匙を投げられた。流れ流れて生後4カ月でわが家にやってきたショコラ(写真、雌)は、立派な人間不信となり、1カ月は部屋の隅に隠れたままだった。
大きくなっても怖がりは直らず、他人が来ると脱兎のごとく2階へ逃げていたが、私たちはそんなショコラを蝶よ、花よとかわいがった。天敵は掃除機くらいのぬるま湯生活を満喫していたショコラだが、ある日、事件は起きた。わが家に一匹のねずみが現れたのだ。
部屋の隅を素早くねずみが駆けていく。わが家にねずみが出るのは初めてだった。ショコラは驚きのあまり腰を抜かしてへたりこんでいた。それでも「猫たるもの!」と思ったのか、ねずみが逃げていった2階へと駆けだした。
ねずみはタンスの後ろに逃げたのかもしれない。それから三日三晩、ショコラはタンスの前からジッと動かなかった。ご飯の時間になると気もそぞろにカリカリを食べ、すぐにタンスの前へ戻っていく。だが、本当に見張りになっていたかは疑わしい。心配になって見にいくたびに、ショコラはハッと顔をあげる。「寝てた?」。私の問いかけは聞こえないふりをして、タンスの周りのパトロールを開始するのだ。
4日目の夜だったろうか、しおしおとショコラはタンスの前を離れ、私のベッドにもぐりこんできた。
3日間、とっくに逃げたであろうねずみの見張りをしたショコラ。私は今、その鈍くささを心配している。
彼女が14歳で天国に行って3年が経つのに、一向に着替えて私のところに戻ってこないのだ。
天国で迷子になっているんじゃないだろうか。何か怖いことはないか。もしかしたら、生まれ変わるための手続きがわからないのかもしれない。早く、早く、戻っておいで。
(大川恵実 AERA編集部)
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