非常に射程の長い論評だ。ヤン・ファン・エイクからアンディ・ウォーホルに至るまでの「自画像」を軸に、一貫してなにものかに扮するセルフポートレート制作を続けてきた美術家ならではの視点で、縦横無尽な考察を巡らせている。それは同時に、「肖像・ゴッホ」をはじめとする著者自身の作品に対する解題ともなっている。
「自分とは何か」という真摯な問いかけの果てに生み出されていたはずの自画像が、時代の推移とともにいかに変容していったか。それが写真の時代、さらにはプリクラに端を発する「自撮り」文化が浸透した現代において持つ意味は?
新書とは思えないボリュームだが、「自分が見られる」ということに意識的な美術家による、「わたしがたり」を含む美術論として、最後まで飽きさせない。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年11月22日号