デジタルカメラは画像をその場で確認できる安心感がある。一方、そこにはコワさもある。スマートに見えても、何が伝えたいのかわからない「あまい」写真が量産される昨今、もう一度、きちんと、丁寧に撮ることを思い出してほしい――。「アサヒカメラ」7月号では、「人に伝わる夏風景」を写す基本技術を特集。ここでは、写真家・福田健太郎氏による「水の風景を撮る基本」を紹介する。撮影テクニックに走りすぎることなく、自然や風景が見せるちょっとした変化に敏感に反応し、「本当に残したい風景」を撮ってほしい。
【デジタルカメラの高感度性能をいかし、ISO感度を大きく上げた写真はコチラ】
※【夏の風景写真撮影ガイド】水の風景を撮る光
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水辺にはフォトジェニックな風景が待っている。動きもあるから面白いし、気分がいい。大きな水の風景もいいが、こまやかな流れの一部分を見つめるのも面白いから、同じ場所に長くいても飽きない。
水はいつも動いている。「肉眼で見る水の風景」と「写真で写しとめた水の風景」は常に異なる。写す際には、どんな水の風景をとらえたいのか、風景と、そして自分自身との対話が欠かせない。
これは、すべての風景写真の被写体に対していえることだが、自分が対面した風景との心の距離感をはかることが必要で、特に水の風景には、その作業をイメージしやすい。
例えば、川には川幅や水量があり、水の勢いがある。勢いがあれば、荒々しく見えてくるし、穏やかな流れであれば、心静かになる。つまり表情が豊かなので、感じやすい。水の流れの勢いを見せるのであれば、強い気持ちになるし、穏やかな流れであれば、ちょっと引いて静かに見守る、というまなざしへと変わる。
自分の感情を写真に表すにはカメラポジションも大切だが、シャッター速度によっても水の印象はがらりと変わる。それを丁寧に探っていくことが重要だ。デジタルカメラであれば、シャッター速度による描写の変化を撮影現場でつかめる。
フィルム時代は、シャッター速度を決めるための「絞り値との組み合わせ」が重要だった。カメラに装填したのは富士フイルム・ベルビア(ISO50)のように、非常に低感度のものだったため、強い日差しに照らされた水流でなければ高速シャッターで写しとめることはできなかった。
■シャッター速度、絞り値、感度を自分の意思で決定
ところが、デジタル時代になると、選択できる感度の幅が格段に広がり、暗いシーンでも一瞬を写しとめた世界を表現できるようになった。
水の表現ではシャッター速度、絞り値、ISO感度を自分の意思で選択したい。感度は「オート」をOFFにするか、最低限、「最高ISO感度」の初期設定を見直そう。でないと、不用意に超高感度域まで上がってしまい、許容できないほど高感度ノイズのざらざら感が出かねない。それでは濡れた岩肌の緻密さやこまやかな流れ、デリケートな水のハイライトからグレーへとつながっていく階調を豊かに再現できない。
高感度ノイズが許容できるレベルはカメラやシーンによって変わるので、自分で試して、どこまでなら許せるか、あらかじめつかんでおこう。
上の2枚の写真は鹿児島県霧島市の丸尾滝。滝の下の部分を望遠レンズで引き寄せている。
日の当たらない薄暗い場面なので、最初の写真のように、昔のセオリーはスローシャッターで写すシーンだった。感度はISO100に設定、絞りをf22まで絞り込み、露出時間2秒で滝の流れをブラすことによって、斜めに走る岩の節理に沿って滑り落ちる水の描写が鮮明に見え、滝のフォルムが引き立ってくれた。ホワイトバランスは「太陽光」。色温度の高い状況下、青白い色合いが静けさを誘う描写へと変えてくれた。
2枚目の写真は感度をISO3200まで大きく上げ、絞り開放(f2.8)、2500分の1秒でシャッターを切ることによって、薄暗いなかでの一瞬を写しとり、滝の流れを荒々しく表現した。
どちらも肉眼では見えない、写真ならではの表現であり、特に2枚目の写真はデジタルカメラの高感度性能がこれほどまでに優れてきたから写せたといえる。
写真:文=福田健太郎
※アサヒカメラ2019年7月号から抜粋