21人抜きで真打となり、いま、最も客が呼べる落語家の一人とも言われる春風亭一之輔さん。新刊『春風亭一之輔 師いわく』(小学館)は、迷える人々の相談に一之輔さんが答える人生相談本。聞き手は気鋭のカメラマン、キッチンミノルさんですが、このお二人の出会いは、朝日新聞出版発行の「AERA」で連載している人物ルポ「現代の肖像」がきっかけでした。最初は取材者とカメラマンの関係だったのに、いまや、一緒に一之輔さんの海外公演に行くほどの間柄。お二人に当時の思い出から、新刊の話まで、大いに語っていただきました。
【雪が降りしきるなか、一之輔さんと子どもたちを撮影したキッチンさんの写真はこちら】
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――2012年、真打になる直前でまだ二つ目だった春風亭一之輔さんを「現代の肖像」で取材しました。そのときの撮影を担当したキッチンミノルさんは、取材が終わった後も個人的に撮影を続け、一之輔さんの写真集や書籍を出版されています。
一之輔 最初に会ったのは、新宿の喫茶店「らんぶる」だったかな。「現代の肖像」のための打ち合わせで。小作人みたいなカメラマンがいるな、くらいの印象だったけど、その後、取材はどこに来たんだっけ?
キッチン 最初はホール落語だったと思いますけど……。確か、落語の会には3、4回行ったと思います。
一之輔 キッチンは図々しいんだよね、人間が。「そこ邪魔ですよ」と注意されても、「すみませんでしたあ!」とか言ってヘラヘラしてる。あんまりヘコマないし、動じない。
キッチン だって、撮らないといけないから。今の方がかなり気を使って寄席の写真は撮ってますよ。「現代の肖像」のときは、今回一回限りの取材で、もう行かないと思ってたから、大胆に撮ってたけど。
一之輔 寄席の楽屋の人間からするとキッチンは異分子だから、空気が乱れるんですよ。「一之輔兄さんの取材だから」って大目にみてくれてるのに。もう早く取材終わらねえかなって思ったよ。その顔が、この扉の写真ですよ。
キッチン これね、雪の中に子どもたち立たせて。この後、子どもたち全員に嫌われましたからね。でも、なかなか並んでくれないんだもん。
一之輔 そりゃそうだよ! 保育園行く前に並ぶ習慣ないからね、うちは。雪で寒いし、足はびしゃびしゃになるしさあ。
キッチン 「頼む、頼む」ってお願いして撮って。
一之輔 あの後、俺、抱っこして保育園まで行ったなあ。このとき、3歳と6歳だったのか。すごいね、子どもって大きくなるもんだね。
キッチン 一之輔さんの高座はもちろん面白かったんだけど、普段なにげなくしゃべる言葉が面白くて。「現代の肖像」が終わったあとも撮り続けたいと思って、個人的に撮影させてくれとお願いしたんですよね。