日本学生支援機構の調査によると、発達障害のある大学生は年々増加し、ここ10年で約6倍に増えている。各大学は発達障害学生への支援に取り組み始めている。2022年12月19日号の記事を紹介する。
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青い光が部屋を包み、天井に設置されたスピーカーから心地よい音楽が流れる。部屋の片隅に置かれたバブルチューブのなかでは泡がポコポコと音を立て、まるで水族館にいるかのよう。
だが、ここはれっきとした“学び舎”の一つだ。
「壁と天井にLEDライトが埋め込まれていて、リモコンで自由に操作できます。ブルーやグリーンなど、比較的落ち着く色がよく使われているようです」
そう話すのは、障害科学を研究する筑波大学人間系の佐々木銀河准教授だ。同大には、約1万6500人の学生や院生が在籍している。今年12月時点で170人の学生が障害登録し、そのなかで発達障害のある学生は108人。「アクセシブルスタディルーム」と名付けられたこの部屋は、発達障害学生らが学んだり、休んだりするスペースとして活用されている。佐々木准教授は言う。
「授業を受けるというのは、けっこうストレスがかかるんです。外部刺激を減らして集中できる環境を作りたいと考えました」
■人間の脳そもそも多様
発達障害は、先天的な脳機能の発達のアンバランスが原因で、得意なことと苦手なことの凹凸が激しいという特性を持つ。主に、対人関係をうまく築けず、感覚の過敏や鈍さを伴うこともある「自閉症スペクトラム障害」(ASD)、落ち着きがない「注意欠如・多動性障害」(ADHD)、読み書きに困難を抱える「学習障害」(LD)の三つに分類され、複数の特性が重複する人もいる。
同大では、アクセシブルスタディルームのほかにも、発達特性のある学生同士が集まるグループ活動を実施したり、支援ツールを貸し出したりと手厚くサポートしている。特徴的なのは、支援対象の幅広さだ。
「発達障害の診断には医師の判断が必要ですが、筑波大ではニューロダイバーシティーの考え方を基本としています」
そう説明するのは、同大発達障害学生支援プロジェクト実務責任者の脇貴典さん。ニューロダイバーシティーとは、「全ての人間の脳はそもそも多様」という考え方を指す。言い換えれば、医学的な診断はなくとも、学生一人ひとりの発達特性や修学上の「困り感」があればサポートする、というスタンスだ。