鉄道の有無に注目が集まりがちではあるが、交通以外の面に魅力を感じている住民も多いことは強調しておく必要があるだろう。
「都心からのアクセスは確かに良くはありませんが、『駅以外』であればだいたいのものは揃っています。地元に勤めていたり、自宅でもできる仕事をしていたりすれば、それほどの不便は感じないと思います」
こう話すのは、漫画家のなるあすくさん(43)。生まれも育ちも武蔵村山で、『武蔵くんと村山さんは付き合ってみた。』など、出身地を舞台に作品も持っている。
学生時代、「駅がない街」は仲間うちで鉄板の「いじられネタ」だった。「志村けんさんの出身地(東村山市)だっけ?」と間違われることもしょっちゅう。子どもの頃は「それも仕方ない」と思っていたというが、大人になるにつれ、住み心地の良さを感じることが増えた。特に大きかったのは06年、市内にイオンモールができたこと。買物や映画など、たいていの用事は市内で済ませられるようになった。2年前に結婚、1児の父となったが、公園も病院も近く、子育てをするにも困らない。「もちろん原宿や表参道のような場所ではありませんが、田舎でのんびり過ごしたい方にとっていい所だと思います」と話す。
「駅がない」ことにメリットを見出して、この地で商売を始める人もいる。市内で「三陸大船渡寿し」という寿司屋を営む新沼参壱さんは、東日本大震災を機に、岩手県大船渡市から武蔵村山市へと移り住んだ。もとは大船渡市内で割烹料理屋を営んでいたが、津波で店が流されてしまった。復興に向け、屋台村の立ち上げ準備を進めていた最中、地元の商工会から、「武蔵村山市内に寿司屋の空き店舗がある。使ってみないか」と紹介を受け、同市を訪れた。
「電車は通っていないし、バス停も遠い。はじめはこんなところで商売なんてできるのかと思いました。でも裏を返すと、交通の便が悪いからこそ、地元の人たちは街の中で飲み食いをしている。それならば、この環境が逆にチャンスになるんじゃないかと思ったんです」と新沼さんは言う。