「バスはあまり当てにしていません。家からバス停までがまず遠いですし、朝方は混んでいて、場合によっては1台待たされることもあります。時間に余裕がある休日ならまだいいのかもしれませんが、仕事だと遅刻はできませんので」
状況が変わる兆しはある。東京都は、多摩モノレールの終着駅である上北台駅(東大和市)から、武蔵村山市内を通過し箱根ヶ崎駅(西多摩郡瑞穂町)に至るまで、約7キロの区間を延伸する計画を発表している。10月には住民向けの素案説明会が行われ、計画のあらましや工事着工までの流れが説明された。「車を運転しない高齢者や学生にとって、電車は必須の交通手段。モノレールが通れば、助かる人はとても増えると思います」と、福島さんも期待を寄せる。
延伸実現に向け、市もまた、並々ならぬ情熱を注ぐ。市役所の中には「交通企画・モノレール推進課」という専門の部署があり、情報紙を発行したり、PRグッズを制作したりと、市民向けの認知・啓発活動に力を入れている。同課の木村朋子さんによれば、グッズの中でも特に人気があるのが「モノレール え~んしん!マスク」。22年1月、大人用・子ども用を合わせて計258個を販売したところ、大人用は約2週間で完売した。
街・住民が一丸となる中で、気になるのが計画の実現性だ。戦後、同市には何度か鉄道誘致計画が持ち上がっているが、いずれも実現には至っていない。1960年代には吉祥寺~秩父間を通る「武州鉄道」という名の鉄道敷設計画が発案されたが、運輸大臣から地方鉄道敷設免許が交付された直後、関連会社の役員などが贈賄容疑で逮捕され、計画が立ち消えになった。その後は西武鉄道を誘致する活動も起こったが、採算面で西武側が難色を示し、こちらも計画が頓挫したという。
モノレールの延伸について「今度は本当に大丈夫なんでしょうか」と不安げな声で話す住民もいる。今後、計画が中断する可能性はないのだろうか。木村さんは言う。
「12月の都議会では、都知事から『2030年代半ばの開業を目指す』と表明がありました。都市計画の決定までには、住民からの意見書をまとめるのと並行して環境影響評価や軌道法上の手続きも進める必要があり、今日明日に実現させるのは難しい。また、多摩都市モノレールの延伸事業は沿線まちづくりと両輪で進めることがなによりも重要と考えており、市としても、多摩都市モノレールの延伸事業に遅れることなく、沿線まちづくりの取組を進めてまいります」