なんで小説仕立てにしちゃったのかなあ。とは思ったが、木下斉『地元がヤバい…と思ったら読む凡人のための地域再生入門』は「地元で夢を実現」式の類書とは一線を画した本である。
主人公の瀬戸淳は33歳。父が他界して5年。ひとりで食材の卸業を続けてきた母がそろそろ店を畳みたいといってきた。東京の中堅電機メーカーで働く瀬戸は自宅兼店舗の実家を壊して土地を売るつもりでいたが、地元に何軒もの店を持つ同級生の佐田にそそのかされる。<今度店閉めるっていうお前の実家使って、一緒に事業やらへんか?><あのまま壊して売るのはもったいないって>
佐田が提案する「実家再生計画」とは、母屋の1階2階と小屋を分割し、店舗やオフィスとして貸し出すことだった。何年で投資を回収し、家賃をいくらにし、改装費にいくら出せるかをテキパキと計算する佐田。あっけにとられていた瀬戸もやがて乗り気になり、家業の主な事業を自社不動産賃貸に変更する一方、二人は周辺不動産の管理運営を行う新会社「株式会社ままま」を立ち上げた。
なーんだ不動産屋の話か、というなかれ。空き家活用プロジェクトはいまや地域再生の鍵。ところがこれは、通常なかなかうまくいかない。いったい何が問題なのか。出店者同士の仲たがい、無理な要求をする大家、周囲の反対、悪口雑言……。地域再生を妨げる要因が本には次から次に登場する。
とりわけ厄介なのはお役所である。<空き家バンクもそうやし、役所のやることはピントがずれとる。行政の主導でやる空き店舗対策は、空いている店を埋めればそれでしまいや>。<地方再生事業では「見本」をつくるため、役所は「すでに成果が出ている事業」に後追いで集中的に予算を入れ、確実な成果をあげようとする>し。かくて築かれる莫大な予算を注ぎ込んだ失敗事例の山。
<無駄な予算は地方にとっては毒、麻薬>。補助金はむしろ事業の足かせになるとの教訓である。地方衰退の原因はどうやら高齢化や人口減少だけではないようだ。
※週刊朝日 2019年3月1日号