「デジタル経済の嘘とホント」
日本はバブル崩壊以降、新自由主義を導入し、「勝ち組」と「負け組」に分かれ、かつての中間所得層が減少し、経済格差が開いてきたとされている。
全国消費実態調査や国民生活基礎調査によると、税金などを差し引いた世帯の手取り収入(等価可処分所得)が、中央値の半分の水準の世帯の割合(相対的貧困率)は、それぞれ高まっている(図表1)。
このことは、徐々にではあるが「貧困層」が増えていることを示す。
また所得分配の不平等を示すジニ係数で、日本はOECD平均よりも格差が大きいことは、前回の記事「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった」(2019年1月9日付)で書いた。
だから、日本で経済格差はこれ以上、拡大することはないだろうと思っている人が多いのではないか。
だが、そうではない。むしろこれから一気に拡大する可能性が高いのだ。
●情報化投資が遅れてきた日本 RPA導入の加速で変化
日本はこれまでさまざまな理由により情報化投資が遅れてきた。
その結果として日本企業の労働生産性は先進国の中でビリに近い状態がずっと続いているものの、幸いにも米国のような極端な経済格差のある社会にはなっていない。
だが、今、日本では、職場にAIを導入し定型的な仕事であるルーティン(Routine)業務を機械化しようという動きが始まろうとしている。
その典型的な例が、人間が行ってきた事務作業の一部をソフトウェアのロボット技術で自動化するRPA(Robotic Process Automation)である。
その結果、日本は米国の後を追って、これから活発な情報化投資により、経済格差が広がることが予想される。
しかもバブル崩壊以降の日本企業は、大規模なリストラ、労働分配率の低下、非正規の大量採用、人材育成投資の大幅削減という「人への投資の削減」「人を冷遇する」という経営を続けてきた。
そのため、RPAが広がるこれからは、経済格差が米国よりも速いスピードで、一気に、しかも大規模に拡大する、というのが私の予想である。
●米国では80年代からルーティン業務の雇用が減少
前回も紹介した米国MITのデイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)教授の論文から、まずは米国でのルーティン業務の推移を見てみよう。
図表2からわかることは、知識や経験を必要とする「ルーティン業務」(Routine Cognitive)は、米国では少なくとも1960年代は増えていた。従って、その業務を担う人間の数は増えていたのだ。
だが、1970年代になると増加スピードは減少し、1980年代半ばになると米国内のルーティン業務自体が減少に転じ、その後、減少のスピードはどんどん加速している。
その一方で、人間を機械に代替する情報化投資は、1970年代から増え始め、1980年代半以降、一層加速していった。
では、ルーティン業務を担う労働力として、1960年代には雇用を増やしていた米国が、急に人間を機械に代替するほど情報化投資に積極的になっていった「境界線」はどこにあったのだろうか。
図表3は、IT関連機器投資の価格の1994年以降の傾向を示したものだが、情報化投資は急速にコストが減少する傾向を持つ。