このコスト低減傾向は1980年代以降にも見られた。そのため、米国企業の経営者は、合理的な判断をして、人間を雇用するコストよりも情報化投資のコストの方が安くなった時点で、人間を雇用するのを止め、情報化投資に切り替えていったものと思われる。
これが、米国における人間の機械への代替メカニズムである。
図表4に見るように、コスト低減傾向を持つ情報化投資コストが労働コストを下回る「境界点」を越えると、人間が機械に代替され始める。
米国の労働コストは日本の非正規の労働コストよりも高く、情報化投資コストは日本よりも安いので、日本よりも早く「境界点」に到達する。
だがやがて、日本でも米国に遅れるものの、「境界点」に到達する。
●機械化しても雇用は維持 生産性や競争力の低下招く
OECDでは、米国、EU、日本の3ヵ国について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算している(図表5)。
3ヵ国を比較すると、米国が最も変化が大きく、日本が最も変化が小さい。
米国の企業は、2002年以降、中スキルのルーティン業務の労働者を解雇してきただけでなく、中スキルの非ルーティン業務の労働者も解雇してきた。
その一方で、高スキル者を自社内で養成したり、新規雇用を増やしたりするなど、高スキル者の獲得に努めてきた。
米国と比較した日本の特徴は、本来は機械化を進めて解雇できたはずのルーティン業務の雇用者でも、ほとんど解雇していないことだ。
さらに日本と米国との大きな違いは、日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見えることだ。
日本では、「ウィンドウズ95」が発売された95年が「インターネット元年」とされるが、これでは、その後日本が米国とのグローバル競争に負けてきたこともうなずける。
日本企業は、雇用の現状維持の傾向が強く、技術進歩に伴って本来であれば機械で代替できる部分で人間を働かせていたり、高スキル人材を養成したりしていない。
順送り人事、過去と同じ業務の繰り返し、働き方の現状維持、の結果といえる。
つまり、技術進歩に応じた雇用状態が合っていないため、生産性低下、企業競争力低下を招いているものと思われる。
技術進歩にもかかわらず、雇用の現状維持を続けることは、企業のイノベーションの足を引っ張り、生産性の低下、競争力低下につながるのだ。
●AI導入で機械への代替が一気に進む予兆
前述の図表3でわかるように、日本での情報化投資は米国よりもコストが高い。雇用慣行や人事だけでなく、このことも、日本で情報化投資が遅れてきた背景だ。
だが、情報化投資のコストは下がり続ける。日本でもいつかの時点で、多くの企業で人間を雇用するコストよりも情報化投資の方が安くなる境界点が到来する。
そのとき、機械への代替化が一気に進むと予想される。
実は、日本では現在、情報化投資が労働コストを下回る境界点に差し掛かっているのではないかという予兆が見える。
例えば、専門誌の特集、「実践RPA」(日経コンピュータ、2018年10月28日増刊号)、「まるわかりRPA」(日経コンピュータ、2017年12月30日増刊号)から主要な記事のタイトルを拾っただけでも、次のような動きがある。