那覇の市場の向かいで小さな古書店を営む著者が、日々のつれづれを穏やかに描くエッセイ集だ。

 前半部はひとつの挿話の分量が4、5ページで、後半部に比べてやや長めなのだが、この前半部が特に読んでいて心地良い。市場の電気料の勘定がいつも合わなかったり、の悪口を言いまくるおじさんがいたりと、市場ののんびりとした情景が目に浮かぶ。

 そのなかで時おりはっとさせられるのは、店先で出会う人々の生きざまを鮮やかにとらえた部分。「お盆」の章のおじいさんの、無愛想に見えて人懐こいところや、「辻占」の章の「たもつさん」がふと漏らした寂しさ、「休みの日」の章の、市場の昔の写真を懐かしく眺める人の様子など。ふだん見過ごしがちな、日常の中にあるきらめきが収められている。素敵な本だ。

週刊朝日  2018年8月10日号

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