ま、いかにも福島さんがいいそうなことをいい、中野さんがいいそうなことをいってるなと思う人もいるだろう。それでもいま、永田町で何が起こっているかを頭の中で整理するには便利な本。
『嘘に支配される日本』は上智大学教授で最近は市民運動にも積極的にかかわっている中野晃一氏と、ご存じ社民党参院議員の福島みずほ氏が、今日の政治状況について忌憚なく語り合った対談だ。
<テレビ局から反貧困運動に関わっている方に、貧困問題を取材したいので当事者を紹介してほしいと連絡が来たそうなのですが、「テレビ局にいっぱいいますよ」、と>(中野)。笑えない話だが、<一九八九年、「セクシャル・ハラスメント」が流行語大賞を取った時に、よくメディアの人から「セクハラに遭っている人を紹介してください」と言われて、もちろん紹介はせず、「実はあなたの隣にいるんじゃないでしょうか」と答えたことがあります>(福島)。
こうした齟齬は<分断統治の結果なんですよ>と中野さんはいう。人々を分断によって統治するやり方。<新自由主義が社会、経済、政治をズタズタに切り裂いて、各自がそれぞれのタコツボに入ってしまっ>た結果、分断されて互いにいがみあい、その無理解が強権的な支配や富の偏在の餌食になる。
<政党の宣伝が企業広告のような感じ>だし、安倍首相は<大企業の社長のような感覚になっているのではないでしょうか>と福島さん。<私は二世議員と三世議員以降は違う部分があると思うんですよ>と中野さん。河野洋平氏や福田康夫氏ら二世には「一世が作った土台に乗って上げ底をしてもらっている」という負い目があった。だが<三世になると、完全に特権が当たり前になっています>。
首相が経団連といっしょに原発や武器を売り込む。新自由主義も通り越し<いまの日本は重商主義になってしまったかのようです>(中野)とかいわれると問題の根の深さにあらためて思い至る。単に嘆くだけでなく、新自由主義を超えた社会民主主義の可能性に言及されているのが救いかな。
※週刊朝日 2018年8月3日号